妄想と現実をループする迷宮列車 あなたは降りることができるか?
監督:アリツ・モレノ
原作:アントニオ・オレフド
配給:未定
2019年第32回東京国際映画祭コンペティション上映
上記公式サイト:https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32CMP01
あらすじ
編集者のエルガ(ピラール・カストロ)は、夫を精神病院に入院させた帰り、乗った列車で向かいの席に座った男性に声をかけられる。人格障害専門の精神科医だというその男性はファイルをめくりながら、これまで診療してきた患者とのエピソードを語りはじめる。奇妙奇天烈な話の数々に、エルガはそれが事実なのか作り話なのか半信半疑のまま、聞き入ってしまう。医師が降りた後、エルガはファイルを置き忘れていることに気づき、それを届けるために聞いた話を頼りに彼が住んでいるはずの街へと赴く。話に出てきた家の前でに会うことに成功したエルガは、次第に話の迷宮に絡め取られていく。
みどころ
摩訶不思議な映画である。最初は「医師」と名乗る男があまりにいかがわしく、「きっとこの男は外出が許された”患者”なんだな」と想像したくなるのだが、そのうちエルガの話に移ると、エルガの結婚生活そのものがあまりに異常で、その結果「夫を精神病院に」連れて行った、つまり最初に戻るというループに気づく時には、もはやどこをどう歩けば出口に向かって歩けるのか、全くわからない迷宮に取り残される。
その一方で、「個人情報を取られるからゴミを絶対に捨てない男」とか、「精神科医の兄の名前を名乗って生きる男」、「戦争帰還兵のPTSD」「女性も犬も溺愛し所有する男」など、現実にあるようなエピソードも散りばめられているため、時々ゾッとする。特に、「僕のもの」を表す贈り物として首輪を贈られた女性が、最初は彼と一緒にいる時だけしていた首輪をそのうち常時つけるようになり、次第に「犬」となっていくくだりには目が離せない。エキセントリックに見えるかもしれないが、形は違えど精神的にはこうした呪縛に陥る危険と、常に隣り合わせに感じる女性は少なくないだろう。
決して時系列には運ばない、いや「時」という観念がないとも言える構成について、監督のアリツ・モレノは「原作通りに作った」と言い、原作者のアントニオ・オレフドは、「自分の小説が映画になるとは思わなかった」と語る。現代の映画は「わかりやすさ」が求められがちだが、こういう奇想天外かつ刺激的な作品こそ、映画ならではの魅力を発揮できるのではないか。深く心に刻まれて、繰り返し何度も見たくなる映画である。
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