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「ロスト・キング 500年越しの運命」

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「醜」は「悪」なのか?〜「女の直感」が暴いた思い込みの愚〜


監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:スティーヴ・クーガン、ジェフ・ポープ
配給:配給:カルチュア・パブリッシャーズ
公開:2023年9月22日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国公開
公式サイト:https://culture-pub.jp/lostking/

 【ストーリー】
フィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は、シェイクスピアの「リチャード三世」を観劇したことをきっかけに、史実のリチャード三世に興味を抱き、素人ながら文献を読みあさり、同好の人々ともめぐり合って研究にのめり込む。彼女の疑問の発端は「彼の悪評は、身体的ハンディのせいによる不当な扱いなのではないか?」という点だ。フィリッパは、持病を理由に職場で正当な評価を受けていない自分と、王の苦悩とを重ね合わせていた。

【みどころ】
この映画のポイントは3つ。
一つは演劇が観客に与える影響の大きさだ。
生身の人間の演技を直接目にする舞台では、登場人物の心理と観客の心境とがシンクロする時、とてつもない力を発揮する。この映画では、リチャード三世の幻影が出てくるのだが、リチャード役で舞台に出演していた役者(ハリー・ロイド)の扮装のままに、心の声としてフィリッパにつきまとう。その日から、彼女はリチャード三世から逃れられなくなったのである。彼女は王の幻影に誘われるようにして、リチャードの遺骸のありかに導かれていく。それほど舞台からインパクトを受けた証拠であり、かつ幻影とは、自分自身の心でもあるのだ。
二つ目のポイントは、「常識」という名の思い込みについて。
フィリッパは神経の病を得た途端、周囲の人間が自分を「病気」というフィルターを通してしか見ないことに愕然とする。「健全なる精神は健康な肉体に宿る」という常識の残酷さ。「真・善・美」―美しいものは善、醜いものは悪ーそういう人々の思い込みが、外見からわかる身体的ハンディのあるリチャード三世から正当な評価を奪ったのではないか? いやもしかしたら、彼を貶めるために、外見的なハンディさえ作りごとではないか? フィリッパにとって、リチャードの名誉を回復することは、自分自身を救うことでもあるのだ。
三つ目のポイントは、「感情で動く女のカン」を許さないアカデミズムの愚である。
フィリッパは素人であることの上に、「女性」であること「病気」であることによって正しく評価されない。「学者の方が正しい」「素人の世迷言」。彼女はここでも「世間の常識」の壁に阻まれる。
折しもNHKの朝ドラ「らんまん」で、「学歴」といえば「小学校中退」でしかなかった槙野万太郎(モデルとなった実在の人物は牧野富太郎)が描かれているので、学歴や称号、経歴を持たない人間に対する学者や官僚の、権威主義的な態度には、世界中どこにも違いがないことを痛感する。
どこにでもいる子持ちの中年女性が必死に学び、行動する。「殻を破りたい」「変わりたい」と思ってふりしぼる勇気は、痛々しいほどリアルだ。そしてこれ、なんと実話なのである。彼女はアカデミズムの壁と闘い続け、最終的に、エリザベス女王から大英帝国勲章 (MBE) を授与されている。

【文/仲野マリ

原作本 The King’s Grave: The Search for Richard III (著者:フィリッパ・ラングレー)

「君は行き先を知らない」

「ゴジラ−1.0」

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