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「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」

©︎2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS

亡命を決意したバレエのレジェンド、その若き日の焦燥と野望

監督:レイフ・ファインズ
配給:キノフィルムズ/木下グループ
公開:5月10日より、TOHOシネマズ シャンテ、シネクイント、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
公式サイトwhite-crow.jp

ストーリー
1961年、第二世界大戦は終わったものの、時代は西側資本主義体制と東側共産主義体制による東西冷戦の真っ只中。「鉄のカーテン」で徹底的な情報遮断を行なっていたソ連から、世界一と謳われるキーロフバレエ団の一行が、公演のためパリに降り立った。その中には若きルドルフ・ヌレエフも。やがて世界のバレエ・シーンを劇的に塗り替え、バレエ界のレジェンドとなる男である。規則にはまらず思ったことを口にし行動するヌレエフは、西側の人間との接触を嫌う監視員の規制を振り切ってオペラ座のダンサーたちと親交を深める。帰国の日、ヌレエフは「自由」を手にするため、大きな賭けに出た。

みどころ
この映画は、いつ生まれ、どの時代に育ったかで感想が大きく異なってくるかもしれない。「KGB=ケージービー」(アメリカにおけるCIAと同じような情報機関かつ秘密警察)と言う言葉が、あたかも「ナチス」や「憲兵隊」のごとく恐怖とともに語られていた70年代までを知る筆者など、ヌレエフがKGBの監視員の目の前で堂々と体制への不満を口にするシーンに、これではすぐに「収容所」送りになるのでは?と背筋が凍る思いだ。また、バレエを極めるためにウファというロシアの片田舎から出てきて、それも17歳と遅い入学であったヌレエフが、敢えて周囲の人間たちを挑発しながら足場を固めていく姿には、英語もできないのに日本の北海道から単身イギリスに渡り、やがて英国ロイヤルバレエ団に東洋人として初めて迎えられた熊川哲也の孤独と野望をも彷彿とさせる。
ヌレエフは現実のバレエ界に衝撃を与えた異才である。「ホワイト・クロウ=白いカラス」とは、「ありえないもの」いう意味。女性ダンサーを美しく見せることが使命だった男性ダンサーが、今のようにダイナミックなジャンプや高速ピルエット(回転)でステージの主役となったのは、ヌレエフの登場によるとも言われる。しかし「ありえない」存在としての彼は、常に逆風の矢面に立たされていた。いわゆる「金髪と白い肌の西洋人」によるエレガントなイメージのクラシック・バレエにあって、タタール人の血を引くヌレエフは、容貌からして異端。まさに「白いカラス」として差別も受けていただろう。また、共産体制のソ連にあって、自由に生きることを求めること自体がすでに異端。二重三重の「ホワイト・クロウ」が何を忍従し、何に抗ってレジェンドとなったのか。そのエネルギーを、彼の「やり場のない憤懣」に凝縮し、よく描いている。
ヌレエフ役のオレグ・イヴェンコはウクライナ出身の現役バレエダンサーだ。バレエシーンもさることながら、タタール民族の血を引くヌレエフのエキゾチックな面影を映し、目を見張る演技力でミステリアスなストーリーを牽引する。映画俳優としてはデビューとなるが、今後も活躍が期待できる。ダンサー仲間として、セルゲイ・ポルーニンも出演。監督のレイフ・ファインズが、バレエ教師プーシキンを演じているが、彼の抑制された面持ちがヌレエフと対照的で、「ソ連」と言う時代を生き抜いたクリエーターの苦難をよく表している。
超絶技巧の男性バレエダンサーの側面が強調されがちなヌレエフだが、後にパリ・オペラ座で長く芸術監督を務め、「白鳥の湖」「シンデレラ」など、多くの古典の再振付し、今も踊られている。そうした芸術家としての慧眼がいかにして形作られていったか、その一端を、この映画ではエルミタージュ美術館やルーブル美術館で一枚の絵の前に佇むロングカットの中に収めており、単なる「亡命サスペンス伝記映画」にとどまらない厚みを与えている。(文/仲野マリ

「ホワイト・クロウ」は昨年の第31回東京国際映画祭でもコンペティション部門の1作として上映され、監督のレイフ・ファインズが記者会見やトークイベントに応じました。長年温めてきたこの映画の企画について、またキャスティングのポイントなどについて語っています。
(下のリンクをクリックすると、その時の会見リポートに飛びます。リポーターはこのサイトにも執筆している花岡薫氏)

 

 

「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」

空母いぶき

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