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『ロープ/戦場の生命線』

©2015, REPOSADO PRODUCCIONES S.L., MEDIAPRODUCCIÓN S.L.U.

それでも明日を信じてる! バルカン内戦戦後処理の矛盾に背を向けない人々の底力


監督:フェルナンド・レオン・デ・アラノア
提供:レスペ、中央映画貿易

配給:レスペ/rope-movie.com/
【英語・セルビア語・スペイン語・フランス語・ボスニア語】

公開:2018年2月10日(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!
公式サイト:http://rope-movie.com

【ストーリー
マンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)は酒と女とジョークの好きな、明るく屈強な男。国際NGO“国境なき水と衛生管理団”の一員として、内戦で疲弊した旧ユーゴスラビアの民衆の生活向上のために働いている。今日のミッションは、共用井戸に投げ込まれた死体の引き上げだ。しかしあと少しのところで巻き上げロープが切れ、死体はまたもや井戸の底に。このままではこの一帯の生活用水が汚染されてしまう。マンブルゥと相棒のビー(ティム・ロビンス)、新人のソフィー(メラニー・ティエリー)と通訳の4人は、新たなロープを手に入れるべく情報を集め、2台のジープで荒地を進む。しかしその1本のロープがなかなか見つからない。連携して活動するはずの国連軍とも、見解の相違や優先順位の違いが浮き彫りになり、苛立ちが募る。本部から派遣されたカティア(オルガ・キュリレンコ)は、さらに杓子定規。「現場を知らない」ご立派な意見には、手練れのビーや若いソフィーだけでなく、元恋人のマンブルゥさえ匙を投げる。途中で出会った少年ニコラが「うちにロープがあるよ」と言ったことから、地雷の埋まった道や武装集団の検問を避けてようやくたどり着いたとき、マンブルゥたちは目の前の現実に、言葉を失うのだった。

【みどころ
バルカン半島は、アジアとヨーロッパの境界線がせめぎ合い、人種と宗教が常に交差する複雑な歴史を持っている。「ヨーロッパの火薬庫」とも言われ、第一次世界大戦もここから始まった。第二次世界大戦後にチトー大統領が融合を是とし、多民族国家として発足したユーゴスラビアだったが、ソ連崩壊後、民族独立運動が盛んとなり内戦が激化。他民族間の結婚も進んでいた日常は崩れ、「昨日まで親友だったのに、突然憎しみ合う敵同士となる」ことを強要される社会となった。
ユーゴスラビアの内戦はまた、平和と正義のため「よかれと思って」やったはずの第三者介入も、1歩間違えば戦禍を泥沼化させるしことを世界に知らしめた。切り取られた情報で全体を判断するのは誰にとっても簡単なことではない。映画の中で繰り広げられる国連軍とNGOとのやりとりと、マンブルゥたち現場を駆け巡る実働隊が目の当たりにする事実のギャップは、そのまま「テレビの向こう側」で安全に戦争を評する私たちへの警鐘でもある。
だから黙ってろ、だから手を引け、ではない結論が、この映画の素晴らしいところだ。理想を語る者を笑ってはならない。時に理想も現実に負け、投げ出したくなる気持ちは誰にでもある。しかし、マンブルゥたちは今日もジープを走らせる。徒労感も、虚しさも、笑顔とジョークに換えながら。
この映画は1995年の旧ユーゴスラビアを描いている。戦争も災害も、喉元過ぎれば忘れられがちだ。「テレビの向こう側」にいる私たちにも、忘れない義務、追っていく義務がある。この「火薬庫」に、また戦争の口火がつけられないように。

【文/仲野マリ】

 

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