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「プロミスト・ランド」

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シェールガス試掘権に揺れるカントリーサイド

農家の誇りと不安をえぐるマットデイモンの問題作

監督: ガス・ヴァン・サント
脚本: ジョン・クラシンスキー、マット・デイモン 
配給: キノフィルムズ
封切: 8月22日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー
公式サイト: WWW.PROMISED-LAND.JP

【ストーリー】
スティーヴ・バトラー(マット・デイモン)は、大手エネルギー会社のエリート社員。シェールガス埋蔵地に赴いては農場主から採掘権を借り上げる仕事をしている。幹部からの信頼も厚く、次の担当地域・マッキンリーで成功を収めれば、さらなる昇進も確約されている。自らも農家出身のスティーヴは、農業がもたらす日銭の少なさも、田舎町が企業撤退などであっという間に衰退していくのも目の当たりにしていた。だからこそ彼が説く「あなたの土地にはシェールガスがある」「試掘を許可するだけで、子どもを大学に行かせられる」の言葉に真実味があるのだ。いつものコンビ・スー(フランシス・マクドーマンド)と乗り込み、いつものようにスーツを脱ぎ捨て、カントリーな出で立ちで町民集会に参加、「いっちょあがり」のはずだったが今回の町は違った。地元の元高校教師で実は高名な科学者でもあるフランク(ハル・ホルブルック)が「いったん試掘を始めたら、この土地は化学薬品まみれとなり、植物も動物も育たなくなる」と反論し始めたのである。さらに彼に加勢するかのように、環境活動家ダスティン(ジョン・クラシンスキー)も乗り込んでくる。必死でダスティンの汚点をつかもうとするスティーヴ。ようやく「勝ち」が見えてきたとき、スティーヴは重大な秘密を知ってしまう。

【みどころ】
過疎が進み、時代に取り残された広大な地は、洋の東西を問わずグローバル企業に目を付けられる。「夢のエネルギー」がシェールガスであれ原子力であれ、それは変わらないのだということがよくわかる話である。日本でも原発立地の「事前調査」を受け入れるだけでその自治体にカネが落ちるので、「受け入れなくてもそのカネは返さなくていい」という条件を楯に、住民を説得させようとした市長がいた。それぞれの家庭に合った「はなぐすり」を効かせ、ひとつひとつの農家をまわってしらみつぶしに籠絡していくプロセスも同じ。一方で、そうした血肉の通った折衝は末端に任せ、スカイプの向こうで「データ」だけを待っている背広組たち。舞台となる町「マッキンリー」は、アメリカのフロンティア精神の象徴のような風景を見せ、「星条旗がペイントされた古い納屋」にすべてはこめられる。民にとって国とは何か、カネとは何か、職業とは何か、幸せとは何か。スティーヴが、真面目に考え真面目に生きて、誇りを持って農家のためにその仕事をしているからこそ、私たちは深く深く「生きる意味」を考えずにはいられない。恋のさやあてあり、親子の確執あり、のエンターテイメントでありながら、今そこにある社会問題に真正面から取り組んだ、見ごたえのある作品だ。

【初出:仲野マリの気ままにシネマナビonline 2014年8月9日(再録に際し加筆修正)】

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