「市民」

© 2021 Menuetto/ One For The Road/ Les Films du Fleuve/ Mobra Films

弱き者、汝の名は女。立ち上がれ、行方不明の娘のために


監督:テオドラ・アナ・ミハイ
制作:ベルギー/ルーマニア/メキシコ
第34回東京国際映画祭コンペティション部門参加
公式サイト:https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP09

 【ストーリー】
北部メキシコの小さな町に住むシエロは、忍従の妻だ。夫は愛人にうつつを抜かし、ほとんど家に戻らない。唯一の楽しみが、美しく育った娘の行末。今日も優しいボーイフレンドとデートに出かける。ところが、夜になっても娘は帰って来ない。恋人に連絡すると、デートの約束もしていなかった。一体娘はどこへ? そこへ身代金を要求する男が現れる。愛する娘は誘拐されたのだった。娘を返して欲しい一心で取引に応じたが、娘は解放されない。夫が出した身代金は要求額を下回っていたのだ。残りをすぐに払い、さらに要求された分を払っても、娘は戻ってこなかった。警察に訴えても、あまりに誘拐や行方不明者が多すぎて取り合ってくれない。シエロはたった独り、必死で娘の行方を追い始める。

【あらすじ】
今、メキシコでは1日10人以上の女性が「女性であること」を理由に殺されており、こうした「フェミサイド」をめぐりデモが繰り返されているという。デモの主な参加者は、自分の娘を殺されたり誘拐されたりした母親だ。
映画では、犯人たちの無法ぶりだけだでなく、町のとりまとめ役さえも誘拐犯の一味であったり、犯人と思しき者たちを人権無視で「処刑」する武装組織も出現したりで、この国で「普通」に生きることが、どんなに大変か、映画を観ているだけで恐ろしくなる。
この物語は、一方でそうした悪のはびこる社会を描きつつ、本当のテーマは「夫に従うだけだった妻が、ついに立ち上がり、自分の意見を言って行動する姿」だ。愛人を作られても罵声を浴びせられても耐え忍んでいたシエロが、自分の娘さえも守れなかった夫の不甲斐なさを目の前にして、自分の弱さと決別し、自分の足で歩き出す物語である。

【初出:Wife398号 2022年2月。「女性が『境界』を越えるとき」から抽出し、、加筆の上公開 文/仲野マリ

 

「ヴェラは海の夢を見る」

「箱」

関連記事

  1. 「クライ・マッチョ」

    21世紀の老カウボーイ、古き良きアメリカの夢を見る監督/製作:クリント・イーストウッド原…

  2. 「君の名前で僕を呼んで」

    避暑地の夏、本当の恋を見つけた息子へ監督:ルカ・グァダニーノ 配給: ファントム・フィルム…

  3. 「ラスト・ナイツ」

    「忠臣蔵」に人類共通の騎士魂を見る監督:紀里谷和明配給:KIRIYA PICTURES/…

  4. 「馬々と人間」

    アイスランド馬との共生で知る、生と死と恋の手ざわり監督:ベネディクト・エルリングソン製作:フ…

  5. 「エリック・クラプトン―12小節の人生―」

    赤裸々告白とアーカイブ映像で綴る、ロック&ブルースの決定版クロニクル監督:リリ・フィニー・ザナッ…

  6. 「ある詩人」

    固有の言語が消える時、文化は? 民族の存在意義は?監督:監督:ダルジャン・オミルバエフ制…

  7. 「幸せのありか」

    僕の幸せは、僕だけが決められる!監督・脚本:マチェイ・ピェブシツア配給:アルシネテラン封…

  8. 「海辺の家族たち」

    高台に築いた見晴らしの良い家に宿るフランス版「新しき村」の理想と終焉監督・脚本:ロベール・ゲ…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

最近の映画レビュー

PAGE TOP