青い空の下、行政からこぼれ落ちた鮮烈貧困母子家庭
監督:ショーン・ベイカー
配給:クロックワークス
公開:2018年5月12日、アップリンクほか全国順次公開
公式HP:http://floridaproject.net
【ストーリー】
アメリカ、ディズニー・ワールドのすぐ脇にある安モーテルに、6歳のムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)と失業中の若い母親ヘイリー(ブリア・ヴィネイト)が滞在している。同じモーテルに住む子どもたちと元気いっぱいに過ごすムーニー。ヘイリーは、理想的な母親ではないけれどムーニーを可愛がり、明るさを失わない。そんな事情のある住人たちを管理人のボビー(ウィレム・デフォー)が、一定の距離を保ちながら温かく見守ってくれている。ある日、ムーニーの悪ふざけからボヤ騒動が起きてしまう。遊び仲間スクーティ(クリストファー・リヴェラ)の親は、我が子の様子がいつもと違うことに気付き、ムーニーと遊ぶのを即座に禁止する。その事情を知らないヘイリー親子は次第に孤立を深めていくのだった。
【みどころ】
この映画の最大のポイントは、ムーニーから見える大人の世界を描写したことである。カメラの位置を子どもの背丈に合わせ、空は遠く、建物はより高く感じられる。フロリダの太陽に負けないほどの明るさで、子どもたちは笑い、街を闊歩する。まるでおとぎの世界に迷い込んだかのようだ。しかし彼らの遊び場は、雑草が伸び放題でカラフルな空き家やハイウェイ沿いのお客の来ないギフトショップだったりする。時々、車にひかれそうにもなる。映画では貧困にも格差があり、コミュニティの中でもいろいろな家族がいることを浮き彫りにしてみせる。合法的なやり方で懸命に働いている人間が、最低限の生活水準を満たせていない。そのことはスクーティの親がフルタイムで働いてもモーテル生活から抜け出せないことから伝わってくる。ましてや満足な教育を受けていないヘイリーは、定職に就くことすらできずに門前払いだ。このままだとムーニーは、能力を伸ばすことが出来ずに貧しい生活を強いられることが予想できる。このフィルムは「サブプライム住宅ローン」破綻後のアメリカを切り取った姿である。隠れホームレスが全米規模で存在する実態を知った監督の切実な思いが、ひしひしと伝わってくる。同時に日本で起きつつある経済格差も他人事ではないと実感した。
【文/花岡 薫】
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