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「大河への道」

©2022「大河への道」フィルムパートナーズ

なぜ伊能忠敬は、大河ドラマの主人公にならないのか

 

原作:立川志の輔(河出文庫刊)/漫画:柴崎侑弘(小学館ビッグコミックス刊)
企画:中井貴一/脚本:森下佳子
監督:中⻄健二
音楽:安川午朗/主題歌:玉置浩二「星路」(みち)
協力:伊能忠敬研究会/特別協力:松竹撮影所/撮影協力:国土地理院/ロケーション協力:香取市
製作:「大河への道」フィルムパートナーズ/製作幹事:木下グループ
配給:松竹

助成:(文化庁ロゴ)文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
公開:2021年5月20日(金)全国ロードショー
公式サイト:taiga-movie.jp

 【ストーリー】
千葉県香取市役所の職員・池本(中井貴一)は、郷土が誇る偉人・伊能忠敬を敬愛してやまない男だ。伊能忠敬は江戸時代に、今の衛星写真と寸分たがわぬ精巧な実測日本地図を完成させた人物である。伊能を知らない部下の木下(松山ケンイチ)に、池本はその魅力と功績を滾々と言い聞かせる。地味な池本だが、市長が「私の任期中に香取市観光の目玉として、伊能忠敬を大河ドラマの主人公にしたい」と言い出したことから、そのプロジェクトの推進リーダーに抜擢される。意気揚々とミッション達成へと動き始めた池本の前には、越えねばならない高いハードルがそびえていた。一つは、「脚本家は絶対に加藤浩造(橋爪功で」という市長命令。池本は20年間筆を折っていて容易に「うん」と言わない。偏屈な加藤を口説き落とそうと、あの手この手で必死にくらいつく。そして最大のハードルが「なぜ伊能忠敬は、これまで一度も大河ドラマの主人公にならなかったのか」の真相である。伊能忠敬は「大日本沿海輿地全図」が完成する前に死亡していたという事実、そして「では完成させたのはいったい誰だ?」という謎に、池本らは迫っていく。

【見どころ】
21世紀の香取市役所と、江戸時代の伊能忠敬、2つの日常が同じ俳優によって交錯しながら進む物語だ。中井貴一は池本のほかに、伊能忠敬の地図プロジェクトチームと幕府をつなぐ天文方の高橋景保の二役。松山ケンイチ以下、市役所の職員たちや脚本家の加藤も、それぞれ江戸時代の重要な人物にもなる「一人二役」体制である。その配役によって、2つの時代は次第にないまぜに。その過程で「江戸も令和も、中間管理職には現場の声を上に伝える使命がある」ことが浮き彫りになる。一大プロジェクトとは、考えた人やリーダーの手腕だけでなく、実際に手足を動かす人がいなくては完成しない。そして「手足を動かす人」が最後まで頑張るためには、仕事への愛と、リーダーの志が必要なのがわかってくる。脚本家・加藤が筆を折った理由もまた、自分の仕事に対する志の高さを垣間見せ、江戸の人間だけでなく、今の人間も、人生をかけるほどの仕事に出会ったならば、クリエーターも公務員も、皆思いは同じであることがじわじわと心に染み入ってくる。実物大の「大日本沿海輿地全図」を大広間に敷き詰めて将軍が俯瞰するラストシーンは圧巻だ。
物語のキモとなるのは、「寸分たがわぬ」伊能忠敬の地図が、北海道だけ少しずれている点である。何も知らない木下だからこその「ギモン」が、大きな伏線となっていく。
(文/仲野マリ

©2022「大河への道」フィルムパートナーズ

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