35歳の“秀才”が見据える将棋盤の向こうに続く道
監督:豊田利晃
配給:東京テアトル
公開年:2018年9月7日
公式サイト:http://shottan-movie.jp
【ストーリー】 10歳で将棋の魅力に取り付かれた“しょったん”こと瀬川晶司(松田龍平)は、15歳で将棋会のエリート養成所「奨励会」に合格。プロを目指して将棋漬けの日々を送り始める。しかし、「26歳までに4段になれなければ退会し、プロへの道が断たれる」という奨励会の規則を前に、夢は破れてしまう。優しかった父の死もあり、将棋から一切離れた晶司だが、アマ名人となっていた親友の誘いで再び棋盤の前へ。純粋に勝負を楽しむうち、プロ棋士との対戦イベントで次々と勝利を重ねる。「やっぱりプロになりたい」。心の底からそう感じた彼は、奨励会を通さずにプロになるため、35歳で異例の挑戦を始める。
【見どころ】 結末を知っていても、見たくなる映画がある。スターの生涯など、実話をベースにした作品がそれだ。実話作品に求められるのは、結末の“意外性”ではなく、そこに至るまでにどんなドラマや人間模様が隠されていたか。この映画の主人公は、35歳で異例のプロ転向を果たした一人の棋士。知られざる棋界との闘いの軌跡が、リアリティーをもって描き出されている。 メガホンを取った豊田監督は、自身も17歳まで奨励会に所属していた“その道の人”だ。駒の置き方一つをも細かく指導し、派手な動きのない将棋をドラマチックに見せられるよう、試合中の2人を360度取り囲むようなカメラで撮影。さまざまな角度から俳優の動きや表情、棋盤を映し出し、羽生善治竜王が認めるほどの迫力と臨場感ある対極シーンを作り上げた。 さらに印象的なのは奨励会で夢を追う若き棋士たちの闘いと苦悩で、ここにも注目してほしい。3段リーグの試合は残酷な年齢制限と常に隣り合わせ。勝てない年長者が焦りからさらに勝てなくなる悪循環が積み重なっていく。10代の少年を相手に長考を重ねて試合の持ち時間がなくなり、立会人が時間を読み上げ始めたときの緊張感はたまらない。脱落していく仲間を何人も見送りながら、タイムリミットを背負い勝負に挑む“ベテラン”のプレッシャーは想像を遥かに超えるだろう。 同じ将棋会をテーマにした映画「聖の青春」で描かれていたのは、本当の天才達の苦悩だが、この映画で描かれるのは“秀才の苦悩”だ。だからこそ、一度は捨てた夢をもう一度手にしようと立ち上がるしょったんの姿は、見る者に大きな“熱”と希望を与えてくれる。
【文/深海ワタル】
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