鍵盤とドラムがつないだ孤独を分け合う“魂の双子”
監督:三木孝浩
配給:東宝=アスミック・エース
公開:2018年3月10日、TOHOシネマズほか全国順次公開
公式HP:http://www.apollon-movie.com
【ストーリー】
物語の舞台は1960年代の長崎県・佐世保。父を亡くし、親戚の家に預けられた薫(知念侑李)は、転校先の高校で札付きの不良・千太郎(中川大志)と、その幼なじみ・律子(小松菜奈)に出会う。クラシックピアノの演奏が支えだった薫は、ある日、律子に誘われて行った地下室で、生き生きとドラムを叩く千太郎を目にすることに。その楽しそうな姿と彼が演奏するジャズに心を奪われる。やがて薫は、千太郎が教会に捨てられた孤児と知り、孤独を抱える二人の絆は一生ものの友情へと変わっていく。だが、幸せな3人の日々は長くは続かなかった。
【みどころ】
映画と音楽は切っても切れない。名作の多くには、耳に残る曲がつきもの。ジャズの心弾む音に彩られたこの映画も、最大の見どころは彼らのセッションだ。鍵盤の上で軽やかに踊る指、腕がそのまま伸びたように自在に動き回るスティックから心浮き立つリズムが刻まれる。ほかのどんな場面よりも輝いて見える2人の表情からは、心から演奏を楽しみ、相手と共演できる喜びが伝わってくる。
1960年代当時、時代の最先端にあったジャズ。軍港である佐世保は、特にそのアメリカから来た最新音楽と親和性が高い街だ。薫は“不良”の千太郎を通してジャズと出合い、優等生として生きてきた自分を解放するように彼との演奏にのめりこむ。混血の孤児であり、孤独や偏見に抗いながら、言葉にならない思いをぶつけるようにドラムを叩いていた千太郎も、心の拠り所だったジャズで演奏を交わしあえたからこそ薫に心を開いていく。
二人の“恋にも似た友情”は、ピュアで不器用でまっすぐにしか走れない高校生ならでは。自身を追い詰めるほど暴力的な承認欲求が魂の双子とも言うべき相手を引き寄せ、傷つけ、再生していく姿は、今その時代を生きる若者はもちろん、60年代にその時代を駆け抜けたかつての若者にも見てもらいたい。親子で鑑賞すれば、年代を超えて語り合える共通の話題が、きっと一つ増えるはずだ。
【文/深海ワタル】
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