夫が死んでわかった「遺産は全部甥のもの」の理不尽
監督:カルトリナ・クラスニチ
制作:コソボ/マケドニア/アルバニア
第34回東京国際映画祭コンペティション部門参加・東京グランプリ/東京都知事賞
公式サイト:https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP15
【ストーリー】
ヴェラは国家的に著名な学者を夫に持ち、娘は舞台女優で孫もいる。ようやく安定した老境を迎え、娘夫婦のために郊外に残してある家を売って娘の生活資金にしようと夫に夢を語る余裕も出てきた。そんな矢先、夫が突然自殺。夫の親友に連絡すると、「自殺したことは伏せておこう」と言われ、動揺がおさまらないヴェラはその言葉に従う。しかし、売る算段をしていた実家の土地家屋が、夫の生前から甥に贈与することになっていたと聞かされ、何も知らなかったヴェラは驚愕する。その上、ヴェラの夫は賭け事にのめり込んでいたことが発覚する。それさえも「社会的な影響が大きすぎる。伏せよう」と言われたとき、ヴェラの中で何かが爆発し、泣き寝入りを拒否することを決意する。
【みどころ】
東京国際映画祭コンペティション部門の15作品中、東京グランプリ/東京都知事賞を受賞したのがこの作品である。コソボ/マケドニア/アルバニア、つまりバルカン半島の国々の共同制作と聞くと、「どこか遠くの国の映画」に感じるかもしれまない。でも、描かれているのは私たちにも身近な「相続問題」である。田舎の親族は結束が固い。「これまでこの家を管理していたのは甥だ。それに、男に財産が行くのは当然。息子を生まなかったお前が悪い」と甥側にまわります。だいたい、「親族代表」はすべて男性なのだ。唯一味方してくれると思っていた娘も「女は文句を言うなって私を育てたのはママだよね」とつれない。こういうところは、昭和に主婦をやっていた日本女性なら、すごく共感できるのではないだろうか。ヴェラは土地取引をめぐるインサイダー情報の横流しや賭博の常習など、「男社会の汚さ」を突き止める。しかし女性一人で社会慣習に立ち向かうことは、危険をも伴う。卑近な相続問題が社会問題にまで発展していく、ミステリータッチの作品である。
【初出:Wife398号 2022年2月。「女性が『境界』を越えるとき」から抽出し、、加筆の上公開 文/仲野マリ】
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