大物を殺せば戦争は終わる? 緊迫の暗殺とさらなる悲劇
監督:セドリック・ヒメネス
原作:ローラン・ビネ(下段参照)
配給:アスミック・エース
公開:1月25日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開)
公式HP:http://hhhh-movie.asmik-ace.co.jp
【ストーリー】
ラインハルト・ハイドリッヒ(ジェイソン・クラーク)は将来を嘱望されたドイツ軍人だったが、スキャンダルで不名誉除隊に。失意のハイドリッヒを、ナチス党員で婚約者のリナ(ロザムンド・パイク)は見捨てず、親衛隊SS指導者ヒムラーに会わせた。情報局を任せられたハイドリッヒの仕事ぶりは「金髪の野獣」と恐れられ、やがて蹂躙されたチェコ人の暗殺対象となる。
【みどころ】
前半と後半で、まったく視点が変わる特異な映画である。最初はナチス党員ハイドリッヒの人生をドイツ側から。中盤からは、そのハイドリッヒ暗殺計画に加わったチェコ人とスロバキア人の2人を中心とした、息詰まるようなレジスタンス運動。最後は暗殺計画露見に対する「百倍返し」の狂気で、常軌を逸した報復には胸が痛くなる。
1942年、ナチスドイツのチェコ支配・ユダヤ人殲滅作戦の話だが、その激しい差別や偏見、それに屈服しない抵抗を見るにつけ、21世紀の今世界を覆う民族対立や移民問題を考えずにはいられない。私たちはつい、「あの独裁者さえいなくなれば、平和になるのに」と思いがちだが、たとえリーダー1人を亡き者にしても、ブレーキの壊れた車は止まらない。その恐ろしさを感じる映画だ。
「見てから読む」ならこの1冊!
「HHhH プラハ、1942年」(ローラン・ビネ/訳=高橋 啓、東京創元社)
ハイドリヒ暗殺計画をたどる1人のフランス人作家の旅路
上記映画の原作は、小説とも実録本とも、エッセイともつかぬ不思議な構成で書かれている。少年期に父親の書棚でみつけた「ゲシュタポ・狂気の歴史」をきっかけに、ハイドリッヒのことが頭から離れなくなったローラン・ビネが、長じてありとあらゆる資料を集め、できうる限り忠実に事実を明るみに出そうとする一部始終が、史実と交互に書かれているのだ。なぜ音楽家の息子がユダヤ人殲滅計画に知恵を絞ることになったのか、周到な暗殺計画は、なぜぶざまな様相を見せたのか、その暗殺計画など知らなかった人々が、どんな不幸を背負わされたのか。「HHhH」とは、Himmlers Hirn heiβt Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリッヒと呼ばれる)の頭文字をとったもの。
【文/仲野マリ】
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