「スワン・ソング」

©2021 Swan Song Film LLC

ゲイカルチャーに乾杯!~老いてなお、自分らしく生きる~


監督・脚本・プロデューサー:トッド・スティーヴンス
制作:アメリカ
第34回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門
公式サイト:https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3404WFC06

【ストーリー】
パットはかつてセレブ御用達のヘアアーティストだった。今はオハイオ州の片田舎の高齢者施設で死んだように暮らす。そこに舞い込んできた「死化粧」の依頼。かつての顧客であった大物女優が、「死化粧はパットに」と遺言したのだった。最初は言下に断ったが、思い直し引き受けることに。しかし彼女の家に向かおうにも、パットは一銭のカネも持ち合わせていなかった。それでも彼は、何かに取りつかれたようにタンスの引き出しからいくつかのものを探し、それを持って施設を抜け出す。外は炎天下。人生最後の真夏の大冒険が、今始まった。

【みどころ】
21世紀についていけない老人の話である。健康に悪いから酒とタバコを取り上げられ、一つの楽しみもなくとも生きることが義務のように施設に管理されていた男が、「自分らしく」生きるために一歩踏み出す話である。しかしかつて自分が使っていたお気に入りの道具たちは、すべて製造打ち切り。「地球環境に悪い」とフロンガス入りのヘアケア製品もない。
一方で、これは80年代のファッションと音楽に彩られた、華やかで魂がウキウキする話でもある。ディスコシーンやパットのドラァグ・クイーン姿は、観る者の魂を解放させる。「ありもの」を使ってパットが生み出すコスチュームや小物たち! そのセンスの良さには脱帽だ。
が、これはLGBTQの話である。自分が自分らしく生きたはずの日々も、実は過酷な一面が潜んでいた。パットの明るさの裏に、エイズで死んだ恋人との別れなど、悲しく辛い過去があったことも浮き彫りに。黙々と庭を掘り返すパットの背中が哀しい。
21世紀になってもなお、LGBTQに対する偏見はある。それでも世の中は進歩していることを感じさせるところが希望だ。パットの、「少し違った自分」を抱える人々への優しい眼差しに、思わず目頭が熱くなる。
この映画は、実在の美容師パット・ピッツェンバーガーをモデルにして描かれている。

【初出:Wife398号 2022年2月、加筆の上公開 文/仲野マリ

 

「ベネシアフレニア」

「ある詩人」

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