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「ギャングース」

“タタキ”に手を染めた「非行少年」たち。ただ「“普通”の生活」がしたかっただけなのに。

“普通の生活”を夢見る被虐児たち 命がけの「タタキ」がもたらす未来は


監督
:入江悠 
原作:「ギャングース」(モーニングKC、漫画/肥谷圭介、ストーリー共同制作/鈴木大介) 
配給:キノフィルムズ 
公開:2018年11月23日TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー
公式サイト:http://gangoose-movie.jp

【ストーリー】
幼い頃から親の虐待に遭い、自らも罪を犯すことになったサイケ(高杉真宙)、カズキ(加藤諒)、タケオ(渡辺大知)。少年院で出会った3人は、出所後もまともな仕事に就けず、社会の最底辺で生きていた。3人が生きるために掴んだ手段は、“タタキ”と呼ばれる強盗稼業。いつか表社会で真っ当に暮らすことを目標に、振り込め詐欺集団の事務所などを襲い“更生資金”をためていく。だが、「1人1000万円」の目標に迫りつつあったある日、小さな気の緩みから犯罪営利カンパニー・六龍天に身元を知られることに。絶体絶命の状況へと追い込まれた彼らは、六龍天のトップ・安達をターゲットに命がけのタタキを計画する。

【みどころ】
日本の貧困と虐待の側面を、犯罪加害者に陥る被虐児の視点からあぶり出した社会派青春ドラマが誕生した。主人公は、犯罪者だけをターゲットにした強盗=“タタキ”に手を染める3人の「非行少年」たち。「クローズZERO」などこれまでの人気アウトロー映画と一線を画すのは、彼らの夢が裏社会で成り上がることではなく、一日も早く「“普通”の生活をする」というところだ。映画の中には、長年触法少年・少女の取材を続けてきた原作の共著者・鈴木大介氏の取材が反映され、暴力団に所属せず犯罪を繰り返す“半グレ集団”について、掟や詐欺の構造が描かれている。
特に印象的なのは、振り込め詐欺グループの番頭・加藤(金子ノブアキ)が、日本の貧困の現実を力説する場面だ。政府発表のリアルデータを織り交ぜたこの語りは、ミュージシャンを本業とする金子独特のリズム・口調と相まって見るものの心に鋭く迫る。犯罪で生活を成り立たせようする少年達の背景にあるものが、説得力を持って浮き上がってくるからだ。同時に主人公3人のどんな形でも生き抜こうとする強さと、仲間がいるからこその明るさは、この作品を生命力の輝きにあふれる青春映画に仕立てている。3人がやっと手に入れた金で牛丼を食べるシーンは、束の間の若者らしいじゃれ合いや屈託無い笑顔が切なくも温かい。どん底にいても一緒に食事をしてくくだらないことで笑える相手。それが彼らの持つ唯一で全て、そして綱渡りの人生を支える命綱なのだ。
この映画は決してタタキや詐欺のような犯罪を肯定するものではない。しかし、犯罪者と呼ばれる彼らの日常とかつての被虐者だった現実に目を向けたとき、ラストシーンでサラリーマンが呟く「正論」が、これまでと少しだけ違って聞こえてくるのではないだろうか。

 【文/深海ワタル

「エリック・クラプトン―12小節の人生―」

「ビブリア古書堂の事件手帖」

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