いつか満月の夜に桜を見よう! 家族の約束は生きる希望となる
監督:滝田洋二郎
舞台演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
配給:東映
公開: 3月10日(土)より全国ロードショー
公式サイト:http://www.kitanosakuramori.jp
【ストーリー】
1945年春、南樺太では江連てつ(吉永小百合)が育て上げた桜の花が咲き、束の間の平和を彩っていた。しかし8月、樺太にソ連軍が侵入。出兵する夫(阿部寛)を残し、てつは2人の息子を連れて網走へ避難した。それから30年近い年月が経過。てつの次男修二郎(堺雅人)は米国で事業を成功させ、社長として帰国する。修二郎は、網走で一人暮らしをする老いたてつに驚き自宅に呼び寄せる。が、てつの様子は少しおかしい。てつを病院へ連れて行った修二郎は、「思い出したくない記憶を閉じ込めているのではないか」と医師に言われて戸惑う。修二郎とてつには辛い思い出があった。やがて、2人で過去を辿る旅に出るが、途中でてつが消息を絶ってしまう。
【みどころ】
吉永の120本目の映画出演作。吉永が以前出演した『北の零年』『北のカナリアたち』に続く“北の三部作”の最終章である。夫との約束を守ろうとする「てつ」に、運命が与えるのは過酷な試練。辛い過去によって「てつ」は、幸福にはなれないと自分を制するようになる。口数少なく控えめだが、心の奥にある信念を貫こうとする「てつ」は、吉永の当たり役だろう。吉永の実年齢を感じさせない美しさと、女性にも好かれそうな可愛らしさには驚かされる。新たなサユリストの誕生も間違いない。
注目すべきは構成と音楽だ。ケラリーノ・サンドロヴィッチによって、途中に組み込まれた舞台演劇のような構成は斬新である。主題歌は小椋佳作詞作曲の『花、闌の時』で、これがとても良い。「桜は満月の夜に開花する。満月の夜に4人で桜を見よう」。夫との約束は「てつ」の生きる希望であった。北の大地で咲く桜に将来を託す江連家の約束は、満天の桜の下での奇跡の大団円へと繋がる。そこへ流れるこの主題歌。音楽が奏でる美しい桜のイメージが、「てつ」の直向さとマッチして心を揺さぶる。親子の愛情や家族の繋がりがテーマだが、桜への愛着や憧れも感じられるラストシーンが印象深い。
【文/星野しげみ】
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