遊牧民の血が騒ぐ! 「縛られない幸せ」の代償
監督:アクタン・アリム・クバト
配給:ビターズエンド
公開:2018年3月17日より岩波ホールほか全国順次公開
公式サイト:http://www.bitters.com.jp/uma_hanatsu/
【ストーリー】
シルクロード、タクラマカン砂漠の北の壁として、中央アジアに高くそびえる天山山脈。その西の麓の広大な原野を、1頭の馬が夜、走り抜けた。両手放しで背に跨る男の名はケンタウロス(アクタン・アリム・クバト)。いい馬がいると聞くと、遊牧民キルギス人の血がうずく。つい一晩拝借して乗り回すが、馬泥棒は大罪だ。村では犯人捜しが始まる。ケンタウロスには耳の聞こえない妻と口をきかない息子がいた。
【みどころ】
キルギスには「馬は人間の翼である」という格言があるそうだ。遊牧民にとって馬は、今も昔も必需品であり宝物であり、そして魂である。東は中国、北はカザフ、西はウズベク南はタジク。民族のモザイク地帯は長年国境紛争に巻き込まれ、様々な政治的支配を受けてきた。ソ連崩壊を経て今は定住化や近代化が進んでいるが、起きている伝統的な生活の衰退や貧富の差は、ここだけの問題ではない。朴訥な男ケンタウロスは、家族を愛し馬を求め、夢見るように生きている。主演も兼ねるクバト監督のタッチはユーモラス。声高に何か主張するわけではないが、「共同体」の底力や、人の幸せのありかを考えさせられる。
【初出:Wife382号 2018年2月 文/仲野マリ】
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