「偽りの隣人  ある諜報員の告白」

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政権の”イヌ”が夢見た幸せな生活はどこに


監督・脚本・VFX:吉野耕平
配給:アルバトロス・フィルム/提供:ニューセレクト
公開:9月17日(金)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー
公式サイト:
https://itsuwari-rinjin.com

【ストーリー】
1985年、大韓民国。次期大統領選に出馬するため帰国した野党政治家イ・ウィシク(オ・ダルス)は、空港に到着するなり逮捕され、自宅軟禁に。諜報機関はウィシクを監視するため、ユ・デグォン(チョン・ウ)を監視チームのリーダーに抜擢、隣家に住み込み24時間盗聴を命じる。デグォンは政権に絶対の忠誠を誓う、コッテコテの右翼マンだ。反政府運動をする輩など、”鬼畜米英”ほどに唾棄して憚らない。忠誠心で出世しようとするデグォンだが、ひょんなことからウィシク家族との交流が始まる。

【みどころ】
韓国映画は政変を扱った優れた社会派サスペンスを連発しているが、それは今生きる人々が「普通の生活」ができる今を迎えるまでに、いかに傷つき、分断され、あまたの血が流れたのを忘れていないからだろう。そして主人公の多くが、「お上のやっていることは正しい」と思って生きている”善良な市民”であることも、特徴の一つだ。政権を信じ、反政権を憎み、笑って生きてきた市井の人々が、”真実”に気づいた時の衝撃と戸惑い、そして、決断。こうした韓国映画の共通したエネルギー源だ。

「盗聴」を扱った映画としては、東ドイツを描いた「善き人のためのソナタ」(2006)を思い出すが、緻密な盗聴というより、グダグダな盗聴生活を描いているところが面白い。隣人として暮らすうち、”鬼畜”と思い込んでいたウィシクの家族も同じ人間でしかないとわかるが、その過程もコミカルに描き出す。盗聴器から聞こえる深夜の「カサカサ」や、「暗号」推理など、「盗聴」が醸し出す勘違いの数々には、大いに笑わされる。

一気に緊張感が増すのは、デグォンの弟が反政府デモで逮捕され、拷問されるあたりから。デグォンの決断がどちらに傾くか、底を割らない上質な筋運びのシナリオと、壮絶なカーアクションを軸としたタイムリミット脱出劇、暗殺劇が展開、見るものを引きつけ、一瞬たりとも飽きさせない。

「お上のやることに従っていればいい」「逆らったら暮らしていけない」と思っているデグォンや部下が、本当の幸せをめざし、正義を貫こうとする。本当の幸せとは何か? ただ自分の家族を幸せにしたいだけ。本当の正義とは何か。自分の気持ちを声に出すだけ。それがいかに危険で恐ろしいことか。そこに共感とカタルシスが生まれる。だが次の瞬間、カメラは私たちの方に向くのだ。

「あなたもデグォンと同じじゃないの?」とこちらに問いかけてくる。
試されているのは私達庶民だ。国民の覚醒なくして、国は動かない。(文/仲野マリ

「海辺の家族たち」

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