「メコン2030」

「SOUL RIVER」/「THE CHE BOTHER」/「THE FORGOTTEN VOICES OF MEKONG」)/「THE LINE」)/「THE UNSEEN RIVER」(2020年第33回東京国際映画祭「東京プレミア」部門で上映)

メコン河流域の5カ国の未来を描く
5人の新鋭監督によるオムニバス

メコン5カ国の気鋭の監督たち

2020年第33回東京国際映画祭「東京プレミア」部門で上映(ワールド・フォーカス部門)

【解説】
メコン河流域の5カ国から5人の新鋭監督が集結し、「2030年のメコン河」という共通テーマのもとにそれぞれがインスパイアされた短編で構成する国際オムニバス。ラオスのルアンパバーン映画祭が企画した。クォーリーカーは2014年に「シアタープノンペン」で、アノーチャは2016年に「暗くなるまでには」でそれぞれ東京国際映画祭に参加している。予告トレイラーには各監督のコメントが収録されていて、彼らのメコンに対する意識、フィルムメイキングに賭ける志などが垣間見える。

1.「SOUL RIVER」監督:ソト・クォーリーカー(カンボジア)

Soul River Mekong2030

洪水によって国土のほとんどが没してしまった無法の時代、1つの舟で漕ぎ出した男と女は掘り出した仏像を高く買ってくれるところを探し奔走する。


2.「THE CHE BOTHER」監督:アニサイ・ケオラ(ラオス)

The Che Brother Mekong2030

チェは母親奪還を求める姉と、こちらの仲間になれという兄の狭間で決断を迫られる。

3.「THE FORGOTTEN VOICES OF MEKONG」監督:サイ・ノー・カン(ミャンマー)

The_Forgotten_Voices_of_the_Mekong-scaled Mekong2030

「村を活性化するには企業誘致しかない!」優秀かつ希望に燃える若き村長のやり方に異を唱えたのは、祖母だった。


4.「THE LINE」監督:アノーチャ・スウィチャーゴーンポン(タイ)

The Line Mekong2030

環境問題とアミニズムをテーマにしての個展を前にして、考えが行きつ戻りつするアーティストと、その個展開催のスタッフたちの思惑は、やがて作品の世界と渾然一体になる。


5.「THE UNSEEN RIVER」監督:ファム・ゴック・ラン(ベトナム)
 

The Unseen River Mekong2030

30年前の恋人に会うために、メコンを上る中年女性の物語と、不眠症を直すためにとある寺院を目指しメコンを下る若い男女の物語が同時進行する。

【みどころ】
10年後の祖国を描く、という意味では、東南アジア版「十年」といった趣の国際オムニバスだ。斬新な描写や切り口を期待していたが、開発優先を推進するのが若い世代でそれに異を唱えるのが長老であるとか、争いからカネの亡者になる男たちの中で最後まで精神性を訴えるのが女性など、その描き方に既視感があったことは否めない。また「21世紀は東南アジアの時代」とも言われていたのに、どの作品にも不安や絶望などの要素が多く入っていた。「10年後」なのに、すでにディストピア的なファンタジックワールドとして描かれているものも多い。「現代」の延長としての「10年後」ではなく、現代崩壊後の社会描写に近くなっていたのが気になった。

その中で最も「現代的」であり、描き方もエッジーでエンターテインメント性もあったのが「THE CHE BOTHER」だである。


「THE CHE BOTHER」

母親の血液がワクチンとなり世界を救う!
カネになる!と知った3人の子どもがとった行動とは?

 

The Che Brother Mekong2030

【あらすじ】
大学生のチェが休暇をとって里帰りしてきた。彼は自分と同じ名前の「チェ・ゲバラ」を崇拝しているが、実際は都会の大学で大人しく勉強している今風の青年だ。生まれ故郷はメコン河流域にある漁村で、今は魚が獲れず荒廃している。帰郷には理由があった。姉から呼ばれたのだ。病気の母親が上の兄に連れて行かれたから一緒に奪還してほしいと言う。「流行性の病気にかかった母の血液からワクチンが作れると知って、兄が大手製薬会社に母の血を売り渡そうとしている。身体中にチューブを繋ぎ、血液をどんどん採取している。人間として扱っていない、母がかわいそう!」そう訴える姉に賛同して兄のいる場所に向かったチェだが、実は姉も母をカネにしようとしていたことが判明。「なんで嘘をついたんだ?」と迫るチェに対し、姉は「誰のカネで大学に通ってるのよ! 私に味方しなさい」と開き直るのだった。

【みどころ】
環境汚染で漁業が衰退していく中、それでも生きて行かねばならない者たちが次に何を「商売」のタネにしていくのか。
貧しい一家の母親が、流行の病に倒れたのは不幸の上の不幸だったのに、それが「ワクチン生成に必要な血液」というカネの成る木になれば、話は180度ひっくり返る。今回の新型コロナ感染症拡大においても、ワクチン開発が間に合わないパニックの中で、大金持たちが「抗体ができた感染者の血清」を求めて血眼になった、という噂が跡を立たなかったことを考えると、麻酔で眠らされ、24時間血液を採取され続けるチェの母親の姿は、「寓話」では済まされない現実性を帯びている。
血液に限らず、今、世界中で横行している人身売買には2種類あって、一昔前までは労働力や売春が目的だったのが、最近は臓器売買目的の比率が増えているとさえ言われている。先進国の富める人々は、「人身売買」を非難する一方で、臓器や血液や、そうした臓器から抽出できる「効果的な」サプリメントを、カネに糸目を付けずに買い漁っている事実を忘れてはならない。
まさにコロナの時代にピッタリ、とさえ思えたこの話は、決して「お説教」にも「お勉強」にもならず、こうした人間の本性をえぐり出す。アクションとコメディと、そしてペーソスに溢れた佳作は「2020年に作られたメコン2030」として後の世に残るのではないだろうか。
(文/仲野マリ

 

 

 

「アラヤ」

「家庭裁判所 第3H法廷」

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