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「海辺の家族たち」

2016 – CINEMA 3 France – CIE & FILMS AGAT©

高台に築いた見晴らしの良い家に宿る
フランス版「新しき村」の理想と終焉

監督・脚本:ロベール・ゲディギャン
配給:キノシネマ  
提供:木下グループ
公開:2021年5月14日(金)キノシネマほか全国順次公開

公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/lavilla/

【ストーリー】
ベテラン舞台女優のアンジェラ(アリアンヌ・アスカリッド)は、久方ぶりに故郷に戻る。老父が倒れたのだ。彼が愛した地中海の小さな入江は、地上げで過疎が進む。同居する長兄やリストラされた次兄は現地での介護を買って出るが、アンジェラは無関心。20年前、父に預けた娘が溺れ死んだ心の傷は、まだ癒えていなかった。

【みどころ】
倒れた親の処遇をきっかけに、介護や遺産の問題で子どもたちの生き方が浮き彫りになる、というドラマは日本でもよく見られ、同時期に公開された「椿の庭」などと比べても、高齢化や地方の過疎化、再開発が絡むなど、視点がここまで共通するとは驚くばかりである。

ただ、本作で描かれる「家族」は、少し様相を異にする。
ここでいう「故郷」は、先祖代々受け継がれてきた土地ではない。父親が仲間とともに新しく作り上げたコミューン(共同体)なのだ。生き方を同じくする仲間たちと場所を選び、家も共に手作りし、「結(ゆい)」のように支え合って「自分たちの村」。日本で言えば、武者小路実篤の「新しき村」だろうか。戦前、貧しい山村の住民が「開拓団」を形成し、北海道や満洲(中国大陸東北部)、ハワイや南米に入植していった、その一世たちの気持ちと似ているかもしれない。
二世以降の世代との温度差に、血縁という「タテ」の関係より、同じ苦労を共にした「ヨコ」の繋がりの強さを感じる。「この村は俺たちが作った」という一世のプライドと「志」が、自らの肉体と同時に消え去ろうとする危機感。隣家夫婦がなした決断は、衝撃的だ。

地中海を渡る難民の問題も絡み、単なる「昔を懐古」では終わらない。「志」は何をもって次の世代に受け継がれるのか? 忘れられた別荘地を舞台に、老いを生きる人々の中に生き続ける若い魂を、時にコミカルに、時に熱く描いた佳作である。

(ライター/仲野マリ

 

 

 

 

 

「椿の庭」

「偽りの隣人  ある諜報員の告白」

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