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「アラヤ」

2020年第33回東京国際映画祭「東京プレミア」部門で上映(ワールド・プレミア)

エッジーなカメラワークで描く孤独と贖罪
「望まれない子」をめぐるそれぞれの17年


監督/脚本/プロデューサー/編集:シー・モン(石梦)
撮影監督:リー・イーピン
編集:ジャン・ミン
2020年第33回東京国際映画祭「東京プレミア」部門で上映(ワールド・プレミア)

【あらすじ】
猟師のダーチェンは、深夜幼い息子を連れて禁猟の山に入るが、途中で息子をはぐれてしまう。時代は変わって17年後の中国。大きく発展した社会の片隅で、ある少女が望まれぬ赤ん坊を独りで産んだ。しかし具合の悪そうな赤ん坊を助けようと、「産むな」と言った元恋人に助けを求める。渋々赤ん坊を病院に連れて行った青年だが、高額治療が必要だとわかると山に捨ててしまうのだった。それを拾ったのがダーチェンだ。息子の帰還を信じ、山で隠遁生活を送っていたダーチェンにとって、赤ん坊は幸せの光となる。17年間人とも交わらず言葉も忘れるほどになっても、具合の悪そうな赤ん坊のために山を下り、町の薬局に乗り込む。薬局の亭主は愛妻との間に子どもに恵まれ故郷に戻ってきた青年だが、幼少期に母と妹と引き離され、父方に引き取られた悲しい過去を持っていた。

【みどころ】
映像は、暗闇でマッチを擦る音から始まる。凍える小さな手に大きな手が添えられ、やがて種火は焚き火となって燃え上がる。それは「事件」の象徴でもあるが、「家庭」の象徴だったかもしれない。「火を囲む」ところには、必ず愛と信頼がある。とはいえ、ダーチェンは狂言回しでしかない。少女はなぜ、「産むな」と言われた子どもを敢えて産んだのか。そこに少女の生い立ちが絡んでくる。
「望まれない子」を産み育てることは、「望まれない子」にとって、「生きる」ことは罪なのだろうか。「産む性」としての女性にとって、自分が産んだ子はすべて「わが子」だが、男性にとっては必ずしもそうではない。愛し合った結果としての妊娠なのに「産むな」と言われた女性の気持ち、レイプされて妊娠した時の女性の気持ち、「血がつながっている」子どもだけを育てようとする父方の実家の思惑、病気で手が掛かるなど「面倒な子育て」を敬遠する気持ち。
妊娠・出産・子育てをめぐる悲惨なエピソードが次から次へとつながっていくが、それでもこの物語には救いがある。一つには、血のつながりがあろうとなかろうと、子どもを子どもとして家族と家族として愛せる男たちの存在だ。そして思いもよらぬエンディング。今まで私たちは何を見せられていたのか、世界がひっくり返るほど驚かされる。リアルにしてファンタジー。その混在の中に、真実が浮かび上がる。
「説明」を一切拝したエッジーな映像と、モンタージュの連続が鮮烈。これが長編映画第一作という監督の将来を大いに期待したい。
(文/仲野マリ

 

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