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「剣の舞〜我が心の旋律〜」

© 2018 Mars Media Entertainment, LLC, DMH STUDIO LLC

ハチャトゥリアンが「剣」に込めた、初恋と望郷と音楽への情熱

監督・脚本:ユスプ・ラジコフ
配給:アルバトロス・フィルム
公開:7月31日(金)新宿武蔵野館ほかで全国順次公開
公式サイト:https://tsurugi-no-mai.com

【ストーリー】
1942年冬、作曲家アラム・ハチャトゥリアン(アンバルツム・カバニャン)は、レニングラードのバレエ団と共に、モロトフへと疎開していた。故郷アルメニアでの記憶をもとに描いた新作『ガイーヌ』の初日が迫る中、ソヴィエト政府は筋を書きえるよう要求する。絶対的権力の急先鋒は、かつての同僚プシュコフ(アレクサンドル・クズネツォフ)。彼はバレエ団の女性ダンサー・サーシャにも目をつけ、アラムの失脚との一石二鳥をもくろむ。

【見どころ】
ハチャトゥリアンの『剣の舞』は、曲名や作曲家を知らずとも、メロディーを聞けばすぐにわかるほど有名な名曲だが、バレエ音楽であることは知らない人が多い。男性ダンサーによる激しい群舞は、第二次世界大戦真っ最中だった当時、戦意高揚にも繋がり人気が高まったに違いない。
音楽家として、スターリン賞を受賞するなど政府からの覚えもめでたいハチャトリアンだが、それでも周辺民族アルメニア出身の彼にとって、生粋のロシア人ではないことは大きな不安要素。一挙手一投足が監視され、失態失言が一つでもあれば即座に全てを奪われるきっかけとなる。その息苦しさは尋常でない。誇りをズタズタにされても音楽に全てを賭ける凄まじい執念が浮かび上がる。
その一方で、同じ芸術家であり仲間でもある作曲家ショスタコーヴィッチやヴァイオリニスト・オイストラフとの語らいもあり、彼らがレーニン・スターリン時代をどう生き抜いて世界的な音楽家として活躍できたのかも想像され興味深い。バレエ『ガイーヌ』の一部も再現されており、舞台の美しさや迫力にも打たれる。浅田真央がフィギュアスケートのフリー演技に使用した「仮面舞踏会」のワルツも流れ、音楽好き、バレエ好きの方にはぜひ見てもらいたい映画だ。


ソ連時代に改称された地名は今、元の名前に戻っている

1942年、第二次大戦時代のソヴィエト連邦を描いた本作では、その当時の地名が使われている。「レニングラード」「モロトフ」とも、ソヴィエト革命の英雄「レーニン」「モロトフ」に因んで改称された地名で、かつては「サンクトペテルブルグ(=ピョートル大帝の都市の意)」「ペルミ」であり、「レニングラード」はソ連崩壊後の1991年に元の「サンクトペテルブルグ」に戻った。モロトフはレーニン・スターリン時代に政治の中枢にいたが、スターリンの死後フルシチョフとの権力闘争に負け、フルシチョフの政権が盤石となった1957年に失脚。「モロトフ」という地名も消し去られ「ペルミ」に戻されている。

モロトフ(=ペルミ)にバレエ団が疎開した理由

ベルミはウラル山脈の西側に位置し、古くからシベリアに通ずる交通の要衝として栄えた。1870年に創立されたオペラ劇場があり、ディアギレフが幼少を過ごした州都でもある。首都レニングラードからバレエ団が「疎開」したのには、そういう土地柄があったのだろう。今も芸術が盛んな都市である。ちなみに「レニングラードのバレエ団」とは、レニングラード・マールイ劇場付属のバレエ団「レニングラード・マールイバレエ」を指し、こちらも2007年に、創設時の「ミハイロフスキー・バレエ」に名称を戻しているが、日本では「レニングラード国立バレエ」「旧レニングラード国立バレエ」の名で親しまれてきた。最近は「ミハイロフスキー・バレエ」の名も冠している。

「水曜が消えた」

「望み」

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