他人の子育てを裁くことはできるのか?
監督:アントニオ・メンデス・エスパルサ
サンセバスチャン映画祭コンペ作品
2020年第33回東京国際映画祭にて上映
【あらすじとみどころ】
アメリカ、フロリダ州レオン郡の裁判所。虐待・ネグレクト・幼児遺棄などで保護された子どもを親元に戻すかどうか、ここで1件1件が審議される。2019年の審議は300件を超え、監督はその全てを記録、重要なケースを抽出してこのドキュメンタリーを製作したという。
映画では最終的に実父母が親権を手放すかどうかの裁定が繰り広げられる。長いやりとりの末、出廷時はすでに子どもを手放す覚悟をしている親、もう一度チャンスを、と懇願する親、ダメ親であっても一緒にいたい子ども、すでに里親に愛情を感じている子ども……。家族の事情もそれぞれ、家族の再生の道のりもそれぞれで、最良の方法にたどり着くのは容易ではない。検察側も弁護側も審議官も、同じ資料を見ながら結論は異なる。
親権を放棄する書類にサインした実父母に対し、審議官が必ず言う言葉が「あなたは子どものために最高の決断をしました。感謝します」である。ある時はホッとした感じで、ある時は書類を棒読みで、ある時は心から感謝するように。いずれにしても、傷つかない人はいない。
長く親の再生に伴走してきたソーシャルワーカーが、裁定に思わず抗議、涙する姿には胸が熱くなる。彼らの未来に望みを託せるのか、安易な性善説が再び子どもを不幸にしてしまわないか。彼らの決断には多くの苦痛が伴い、「子育てを裁く」難しさ感じる。
(文/仲野マリ)
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