唐王朝に潜む楊貴妃伝説の謎。歴史の裏の真実を若き空海が暴く
【監督】チェン・カイコー
【原作】夢枕獏『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』
【配給】東宝 KADOKAWA
【公開年】2018年2月
【公式サイト】http://ku-kai-movie.jp
【あらすじ】
中国・唐の時代。優れた唐の文化を学ぶため、日本から大勢の遣唐使が派遣されていた。若き僧侶・空海(染谷将太)もその一人である。謎の病に伏せる皇帝の祈祷に招かれた空海は、そこで詩人の白楽天(ホアン・シュアン)と知り合う。空海が祈祷を始める前に皇帝は悶絶死、その後も王朝で怪事件が続く。空海は白楽天と共に事件の真相を探り始めた。そして、約30年前の遣唐使阿倍仲麻呂(阿部寛)の存在に辿り着く。仲麻呂が仕えた玄宗皇帝は、絶世の美女・楊貴妃(チャン・ロンロン 吹替・吉田羊)に首ったけであった。仲麻呂の書き残した日記を空海が見つけたことにより、空海と白楽天は、史実に隠された楊貴妃の哀しき運命を知ることになる。
【みどころ】
本作は、遣唐使となった実在の日本人に焦点を当てて中国唐代の歴史絵巻を描いた夢枕獏の小説を原作に、日中共同で制作した。その物語には3つの謎がある。1つ目は楊貴妃の死について。2つ目は楊貴妃と玄宗の愛を描いた白楽天の詩「長恨歌」にはどんな想いを込められているか。そして3つ目は、空海がどうして若くして帰国後すぐに真言宗の開祖となれたのか。これらの謎が、仲麻呂が玄宗に仕えた30年前と空海たちがいる時代とが交錯する中で、徐々に解明されていく。
染谷演じる空海は、怪異が起こっても動じることなく冷静に物事を見据えるとても頼もしい僧侶だ。楊貴妃に心を奪われる仲麻呂を阿部が好演。楊貴妃演じるチャン・ロンロンの美貌は申し分なく、吹替版の吉田羊の優しい声が、彼女を一層魅力的にしている。
しかしこの映画の真の主役は、長安という町かもしれない。繁栄を極める町が洗練された姿でスクリーン一杯に映し出され、幟の艶やかな色彩に目を奪われる。夜になれば、闇の中から不気味な妖猫が登場し、禍々しい雰囲気が漂う。カラフルで美しく幻想的な映像は、歴史ロマンの影を追い求めるチェン監督の得意な手法であり、夢枕漠原作小説のイメージとマッチしている。廃墟と化した宮殿跡からは人の世の栄枯盛衰も感じられた。監督は妖術使いか?と思うような美しいエンターテインメント作品である。
【文/星野しげみ】
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