『人間失格 太宰治と3人の女たち』

太宰文学のミューズになるのは誰か? 彼を取り巻く女たちの狂気と愛情

監督:蜷川実花
配給:松竹、アスミックエース
公開: 9月13日(金)全国ロードショー
公式サイト:http://ningenshikkaku-movie.com/

【ストーリー】
1946年。人気作家として活躍する太宰治(小栗旬)は、妊娠中の妻・美知子(宮沢りえ)と二人の子どもと暮らしながら、常に恋の噂が絶えず自殺未遂を繰り返していた。編集者の佐倉(成田凌)に、次に自分が書くのは「ロマンス」だと告げた太宰は、自分を慕う作家志望の静子(沢尻エリカ)と恋文をやり取りし、逢瀬を重ねるように。やがて静子の日記をもとに『斜陽』を書き上げ、社会現象を巻き起こすほどのベストセラー小説となる。その頃静子が妊娠したと知って途方に暮れた太宰は、酒場で出会った未亡人の美容師・富栄(二階堂ふみ)と関係を深めていく。こうして不道徳で不摂生な暮らしを続ける太宰の体は結核の病状が日に日に悪化。その中でも自分にしか書けない傑作を生みだそうともがき苦しんでいた。

【みどころ】
2007年『さくらん』で映画監督デビューを果たしてから、独自の色彩を通した世界観を映像世界で繰り広げている蜷川実花の最新作。文豪・太宰治と彼を取り巻く3人の女性をテーマに、ベストセラー小説が生まれた背景に迫るラブストーリーをスキャンダラスに描いた。
タイトルにもある「3人の女たち」とは、妻と2人の愛人。女性から見て、3人とも狂気を秘めた怖さがあり、ホラーのようにゾクッとするシーンも何度かあった。わかりやすく怖いのは富栄。戦争から帰還する夫を待ちながら、太宰を盲目的に愛しすぎて堕ちていく姿、そのまっすぐ過ぎる瞳ですぐ死を口にする言動が本当に恐ろしい。太宰が静子の子どもを認知したことに触発され、ひたすら彼の子どもを欲しがり、最後の女になりたくてあがいている。上流階級出身の静子は太宰作品のミューズになりたいため、したたかで貪欲。太宰を通して自分に陶酔している怖さがある。その2人の愛人に対して、実はいちばん怖いのが妻の美知子。太宰の才能を信じて誰よりもその本質を理解するあまり、作品のために「家庭を、この家を壊しなさい」「もう(愛人宅から)帰ってこなくていい」とは凡人には言えないセリフだ。宮沢りえの涙の流し方、流しどころが素晴らしく、抑えても抑えてもにじみ出てしまう感情が伝わってきた。ラスト近くの洗濯物を干すシーンは秀逸。太宰が最後に妻にあてた手紙の一文で、母親のように夫を甘えさせてきた妻の愛情が少しは報われたと思いたい。
太宰は女たちを振り回しているようで、振り回されているようにも見える。だが3人の女たちを通して、自分を壊しながら、利用できるものは何でも利用しながら、身を削って創作する男の生き様が浮かび上がってくる。死滅に向かいつつも生み出した作品の数々だからこそ、今もファンが多く読み継がれているのだと再認識させられた。

【文/富田夏子

 

 

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