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「逆光の頃」

2018年2月7日、DVD発売。

戻ることのない、京都で過ごした17歳の夏

監督:小林啓一
脚本:小林啓一
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
公開:2017年7月8日
公式HP:http://gyakko.com/

【ストーリー】
赤田孝豊(高杉真宙)は京都の高校生。父親は伝統工芸の仕事に打ち込む。しかし孝豊にはこれといった趣味もなく、受験に備え勉強をするにも身が入らない。静かな京都の町で、ただぼんやりと日常を過ごしていた。幼馴染のみこと(葵わかな)とは、家族ぐるみのつきあい。孝豊はひそかな好意を持っているが、気持ちを伝えようとは思っていない。ある日、不良に絡まれるが言い返せない姿を見られ、みことに呆れられてしまう。変わりたい。孝豊はやり過ごしてきた自分の気持ちに向き合う決意をする。上京する友人、父親が見せてくれた職人の道。大人になる未来を意識し始めた孝豊の時間は、少しずつ、そして確実に動いてゆく。

【みどころ】
高校生の青春ものというと、華やかな恋愛ものや部活ものを思い浮かべるが、本作の主人公孝豊は浮いた話もなく帰宅部。物語は短いエピソードがオムニバス形式で進んでいき、大きな起伏や劇的な展開はない。夜の学校で観た月の美しさや初めて父親に仕事を教えてもらったときなどの誇らしさなど、日常の小さな心の動きが淡々と描かれる。孝豊の過ごす17歳の夏の風景のように、一瞬として同じ景色はなく、輝きに満ちている。そんな時間はとうに過ぎてしまった大人にとって、それはまさに逆光のようにまぶしい。
本作を彩るのは背景となる京都の町並み。原作はタナカカツキの漫画で、作者が住んでいた1980年代後半の京都の風景が描かれている。地元の住民だけが使う人気のない抜け道、古い木造の民家など、“古都の静けさ”が物語の雰囲気を形作る。作中で鴨川や祇園などの観光スポットも少しだけ出てくるが、人気は少ない。今や外国人観光客でごった返す京都の町。この静かな京都の姿は失われた過去の京都なのだと郷愁をおぼえる。
本作が撮影されたのは公開の約二年前。今や映画やドラマへの出演が途絶えない高杉真宙、朝ドラヒロインとなった葵わかなという旬なキャストの初々しい姿をみることができる。今このミニマルな作品を撮ろうとして、このふたりを使うことは難しいだろう。本作のふたりのきらめきもまた、奇跡のような瞬間だったのだ。

【文/金尾真里

「早春」デジタルリマスター版

「探偵はBARにいる3」

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