「トゥルーノース」

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北朝鮮の“地図にない監獄”で
地を這うように今日を生き抜く人間がいる


監督:清水ハン栄治 

配給:東映ビデオ 
公開:未定
2020年第33回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門で上映

 

【あらすじ】
北朝鮮で暮らす9歳のヨハンは、ある日父親が政治犯として逮捕されたことで、母と幼い妹と共に強制収容所に送られる。極寒の収容所で、何年にも渡る飢えと暴力と強制労働に耐えながら生き延びる中、ヨハンは残忍な現実に徐々に心を侵食されていく。一方、母と妹は人間としての品位と思いやりを持ち続けようとするが、囚人同士のトラブルが原因で母は命を落とすことに。喪失と絶望の底で苦しむヨハンは、やがて母の遺した言葉を思い出し、本来の自分を取り戻していく。

【みどころ】
北朝鮮の“地図にない監獄”で今も続く囚人たちの過酷な現実は、私たちの想像をはるかに超える。清水ハン栄治監督は、収容体験を持つ脱北者へのインタビューをもとに今作を制作した。しかし、そのあまりに凄惨な状況を前に、実写ではなくアニメーションでの映像化へと舵を切っている。今作のテーマ は「極限状況の中で人はどのようにして人間性を保つのか」。それを伝えるにあたり、実写では残酷さの方が強調され過ぎてしまい、不都合が生じると判断されたからだ。
今作では確かに、やせ細った老人・子どもが力尽き、看守に暴行を受け妊娠した女性が銃殺され、囚人の間でも暴力がはびこる収容所内の生き地獄が描かれている。だが表現のバランスを整えたことで、記憶に残るのは人としての在り方を求めた母親や妹、そして自分を保てずに苦しむヨハンの姿だ。ヨハンたちが直面する苛烈な現実を作り上げたのも人間ならば、そこで最後まで優しさを保ち、“自分”でいることを諦めないのも人間。その両面を突きつけられた時、清水監督が伝えようとしたテーマが改めて重く心に響いてくる。
妹が拾って来た花びらを、薄汚れたバラックのような家族の住まいの壁に少しずつ貼り付けて作る“花畑”は特に印象深い。あえてフィーチャーされることもないまま、月日の経過と共に少しずつ広がっていく花畑は、極限の中でも小さく美しいものへ意識を向け続けた妹の心そのもののように見えた。そして“狭間”で揺れ続けたヨハンが、最後に選ぶ道は鑑賞後微かな希望を胸に残してくれる。
同時に、清水監督が実写化を断念するほどの状況が、今もこの世界で起こっているという現実も無視できない。創作の力をもって、知られざる現実を伝えることと、それを観客の心に残していくこと。映画の大事な一つの役割を、今作はしっかりと形にした。見ることに意味のある映画。それを一人でも多くに人に体感してほしい。
(文/深海ワタル

 

「HOKUSAI」

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