颯爽とジャンルの壁を越える老獪と柔軟と好奇心
監督・撮影・編集:三宅 流 製作:究竟フィルム KUKKYO FILMS、contrail、株式会社アースゲート
配給:究竟フィルム KUKKYO FILMS
封切 :6月27日(土)より新宿K’s cinemaにて公開、以降全国順次公開予定
公式サイト :http://www.odorutabibito.com/
【解説とみどころ】
この映画は三宅流監督が津村禮次郎の5年に密着したドキュメンタリー映画だが、単なる「老能楽師の一生」ではない。ジャンルも年齢も飛び越えて才能と才能がぶつかりあい、融合しあって新作が生まれるその瞬間の連続を、企画出しから稽古風景、上演風景までふんだんに目撃できる。
2012年、能楽師・津村禮次郎は70歳を迎えた。古希を祝う記念能も「一つの通過点」に過ぎない、と彼は少年のような瞳を輝かせて未来を語る。一ツ橋大学の学生時代に初めて能に触れ、女流能楽師・津村紀三子の弟子になる。乞われて養子となり、若くして集団を率い、ひたすら能の世界に没頭した壮年期。そして40歳を過ぎたあたりから、他ジャンルとのコラボにうって出る。
今回一緒に舞台をつくる若手たちは、錚々たるメンバーが名前を連ねる。酒井はなはクラシックバレエのプリマでモダンバレエも手掛ける。小尻健太はキリアン率いるNDTに日本人として初めて入団、金森穣率いる舞踊集団Noismを経て、今はOptoの主宰だ。森山開次はNHKの子ども番組にも出演し、強靭な身体能力とポップなダンスデザインで人気。舞踊集団コンドルズや劇団イキウメなどの作品にも関わる振付家・平原慎太郎、パントマイムを駆使した演出が独特の小野寺修二。あふれ出る若い才能を笑顔で受け入れ、他ジャンルの舞踊スタイルを一から学ぶ。そこに能楽師としてのゆるぎない動きがスパイスに。そして気がつけば、場を支配するのは、津村のほうなのだ。外国のアーティストとのコラボでは、津村だけが能面、能装束を身につけてガムランの調べに乗り、バリのガムランダンサーと共演する。互いにしゃべるのは母国語。丁々発止の戦いの場も、親子で胸の内を語る場面も、まったく違和感なく感じられるのはなぜだろう?
津村の好奇心は、過去から未来へ、日本から世界へ、自在に旅を続けていく。能自体、一本の太い線でつながった「舞踊」の木に流れる樹液のようにして、いにしえの舞楽を内包しあらゆる舞踊の礎となって今に至る。舞踊とは、生きること。舞踊とは、語ること。舞踊とは、つながること。ジャンルにとらわれず、まっすぐに舞踊を極めようとする人々が互いに互いをリスペクトし、自分にないものを吸収していくさまに触れると、人間の創造性、可能性が無限大であることを実感せずにはいられない。
【初出:仲野マリの気ままにシネマナビonline 2015年7月1日 文/仲野マリ】
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