94歳の人間国宝・野村万作が目指す芸境
監督・脚本:犬童一心
製作:万作の会
配給・カルチュア・パブリッシャーズ
公開:8月22日(金)シネスイッチ銀座・テアトル新宿・YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
公式サイト:https://www.culture-pub.jp/six-face/
【ストーリー】
狂言『川上』は、目を治してほしい男が地蔵菩薩に願かけする話だ。菩薩は願いをかなえるが、その代わり「悪縁の妻」と別れるよう命じる。目が見えるようになった男は、家に帰って妻に別れてくれと頼むが、妻は断固拒否! 晴眼と妻、男はどちらを選ぶのか?
人間国宝の狂言師・野村万作は、93歳で文化勲章を受章した時の記念公演の演目に、なぜこの作品を選んだのか。90歳を超えた今、なお目指す万作の「芸境」とは?
【みどころ】
その男・野村万作。本作は、彼が「自分の芸を映像に」という思いから企画されたドキュメンタリーだという。野村万作は狂言師として、すでに「解脱の域にある」と言って憚らないのは、野村萬斎。映画『陰陽師』に主演するなど、狂言界以外でも活躍著しい野村萬斎は、万作の息子である。筆者もかつて野村萬斎目当てで観に行った『敦ー山月記・名人伝』で、中島敦の小説『山月記』の主人公を演じた万作の、人間でありながら虎になってしまうラストシーンの凄まじさに圧倒された一人である。
「六つの顔」には、彼の祖父・父・弟・そして、狂言師の修業は「猿で始まり狐で終わる」と称される猿と狐も入っている。
映画の中で流れる1966年の舞台映像『釣狐』(万作35歳)は短いが、理性と欲望に引き裂かれ身をよじる狐の最後の叫びが耳から離れない。『川上』も、「本当の幸せ」を探す人間をペーソスたっぷりに描き出す。「狂言といえば笑い」という思い込みは吹き飛んでしまうだろう。
極めてもなお高みを目指す万作。人間が国宝になるというその言葉の重みを、考えずにはいられない。
【文/仲野マリ】(『Wife』412号 2025年8月刊行「仲野マリの気ままにシネマナビ」に掲載したものに加筆)
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