「1001グラム ハカリしれない愛のこと」

BulBul Film, Pandora Film Produktion, Slot Machine © 2014

どんなハカリがあれば、人生の重みを比べることができるのだろう?

監督/脚本/製作:ベント・ハーメル

配給:有限会社 ロングライド
公開:10/31(土)Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開
公式Facebookサイト:https://www.facebook.com/1001grams.movie/

【ストーリー】
ノルウェー国立計測研究所に勤めるマリエ(アーネ・ダール・トルプ)は、黙々と仕事をこなす女性。エコ志向も強く、通勤は電気自動車だ。同業のベテランである父が病気で倒れたため、父の代理でパリの国際会議に赴くことになる。それはマリエにとってキャリアアップにつながる大きな仕事だが、ノルウェーに1つしかないキログラム原器を携えての出張は緊張の連続。埃一つ付いても重さが違ってしまうため、何重にも容器に入れられた原器の扱いは、外気に触れぬよう空港の税関でも荷物検査を免れるほどの厳重さが求められるのだった。ところが出張から帰る車の中で、マリエは車両事故を起こし、原器も車から放り出されてしまう。

【みどころ】
笑わない主人公である。なぜマリエが無表情なのかは、寝室のダブルベッドに片方しか蒲団が敷かれていないことで察せられる。研究所と自宅との往復と、たまに父親のいる農場へ行くくらいの起伏のない日々の繰り返すごと、彼女の満たされない思いや息苦しさが積み重なる。対照的に、出張先のパリは色鮮やかだ。パリはマリエに、人生の転機と勇気を与える。感情をあらわにしない彼女が、たった2回だけ微笑む、その微笑が美しい。また、「ハカリ」や「重さ」にまつわるエピソードが、無機質でない奥行をもっているところにも注目。計測に生涯をかけた父アーンスト(スタイン・ヴィンゲ)が、自らの「魂の重さ」を測るよう、娘に託すシーンは感慨深い。「1001グラム」のナゾはそこに関係がある。ラストシーンの会話は、「フィート」や「インチ」など、昔ながらの測定単位の語源を知っていると、さらに楽しめる。“キログラム原器”という冷たい金属の塊を題材にしながら、人のぬくもりや家族の絆、そして自然を強く感じさせる不思議な作品である。

【初出・Wife373号 2015年11月 文/仲野マリ(旧ブログ「気ままにシネマナビonline」2015年10月13日付用に加筆)】

 

「ラスト・ナイツ」

「リリーのすべて」

関連記事

  1. 「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」

    亡命を決意したバレエのレジェンド、その若き日の焦燥と野望監督:レイフ・フ…

  2. 『ロープ/戦場の生命線』

    それでも明日を信じてる! バルカン内戦戦後処理の矛盾に背を向けない人々の底力…

  3. 「ラスト・ナイツ」

    「忠臣蔵」に人類共通の騎士魂を見る監督:紀里谷和明配給:KIRI…

  4. 「スワン・ソング」

    ゲイカルチャーに乾杯!~老いてなお、自分らしく生きる~監督・脚本・プ…

  5. 「沈黙-サイレンス-」

    遠藤周作の「踏み絵」をめぐる小説をスコセッシ監督が完全映画化監督:マ…

  6. 「名もなき生涯」

    農夫の良心を踏みにじるのはナチか?隣人の同調圧力か?監督・脚本:テレンス…

  7. 「君の名前で僕を呼んで」

    避暑地の夏、本当の恋を見つけた息子へ監督:ルカ・グァダニーノ 配給:…

  8. 「母の聖戦」(原題「市民」)

    弱き者、汝の名は女。立ち上がれ、行方不明の娘のために監督:テオドラ・…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。