「花筐/HANAGATAMI」

逝く人、残る人。戦争前夜の青春の輝きと、やり場のない悲しみ。

極彩色の思い出を、形見の花かごに乗せて

監督:大林宣彦
脚本:大林宣彦/桂千穂
配給:新日本映画社
公開:2017年12月16日
公式HP:http://hanagatami-movie.jp/

【あらすじ】
1941年の春、榊山俊彦(窪塚俊介)は唐津浜大学予科へ入学し、そこで個性的な級友と出会う。健康的で美しい肉体と芯の強い精神を持った鵜飼(満島真之介)、斜に構えた態度で虚無僧のような吉良(長塚圭史)。ふたりの級友の大人びた雰囲気への憧れ、そして叔母・圭子(常盤貴子)の義妹である美那(矢作穂香)への淡い恋心……俊彦は、唐津の町で青春を謳歌していた。その一方で俊彦の周りの男たちに、赤紙が届き始める。太平洋戦争開戦への足音は、着々と近づいていた。

【みどころ】
近い未来に訪れるだろう美那の死、男たちに届けられる赤紙ーこの物語には常に、死の予感が影を落としている。原作は檀一雄の小説。彼が徴兵直前に出版した本作は、戦争前夜の緊張感の中、いよいよ輝く青春の日々を描いている。世界は戦争へと向かっているのに、俊彦の日常は絵空事のように楽しく鮮やかだ。遠近感を崩すように合成処理が施された背景は、非現実感を強調する。
鵜飼は「生の象徴」と形容されるが、その対極にいる「死の象徴」であるのがヒロインの肺病の少女・美那だ。残り短い命を波風立てず終わりにするため、彼女は淡く芽生えた恋心を諦め、誰にも話すことのできない死への恐怖を一人抱える。表立って反戦の声を上げることのできなかった時代、抗うことのできない美那の短い人生は、兵士の未来とも重なる。
「花筐」はもともと世阿弥の能の作品名で、自分のもとを去った最愛の皇子を追って都に上る女性・照日の前の物語である。皇子から別れの品として贈られたのが花筐(花かご)だ。狂女となった照日の前は、幸せだった日々の形見である花かごを携え、舞を舞うことで男の心を取り戻す。映画の中でも叔母・圭子が舞を舞うシーンがあるが、それで戦争に散った夫が帰って来ることはない。そして圭子は、狂うこともできない。死にゆく者の恐怖と諦念とともに、物語に通底するのは残された者・残される者の、やり場のない悲しみだ。
大切な人がいることで世界は極彩色に彩られる。その色鮮やかな世界を奪う戦争は、なんと愚かで理不尽か。大林監督が映画化を企画してから40年、戦争や核の影が濃くなる現代にこそ見るべき、反戦のメッセージだ。

【文/金尾真里

「タリ―と私の秘密の時間」

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