コメディ&ハードボイルドで綴る、或る女の壮絶人生
監督:吉田照幸
配給:東映
公開:2017年12月1日(土)より丸の内TOEIほか、全国順次公開
公式HP:http://www.tantei-bar.com
【ストーリー】
北の果ての大歓楽街、ススキノ。携帯電話を持たず、常に行きつけのBARにいる「探偵」(大泉洋)の元に、相棒・高田(松田龍平)の後輩から仕事が舞い込んだ。依頼人の失踪した恋人・麗子探しを気軽に引き受けた探偵は、彼女が働いていた売春組織のオーナー・マリ(北川景子)と出会い、微かな既視感を覚える。やがて麗子の失踪がマリの企てた密輸覚せい剤強奪事件と関係していることが判明。マリの罠に嵌まった探偵は、彼女と共に覚せい剤の密輸の黒幕・北条(リリー・フランキー)から追われることに。凄惨な過去を抱え、北条の愛人になっていたマリは、北条と話をつけるために一世一代の依頼を探偵に託す。
【見どころ】
コメディなのにハードボイルド。スタイリッシュだけどどこか泥臭い。相反する要素が見事に混在しているのがこのシリーズの大きな魅力だ。大泉が演じるのはバカでお人よしで女性に弱く、決してイケメンではない探偵。高田とのテンションの合わない会話や、ヤクザから理不尽な目に遭わされる姿に終始笑いがこみ上げる。だが、それでいて同作は人間ドラマとしても心に残り続ける。それは、暴力と隣り合わせの街に飲み込まれそうになりながら、探偵に最後の望みを託す依頼人たちの切実な悲しみが描かれるからだ。
特に今作のマリは、シリーズでも群を抜くほど壮絶な過去を、美しく凛とした笑顔の下に隠して探偵の前に現れる。雪に埋もれそうな路地裏で虚無の顔をして座り込む姿、幼い子どもに向ける優しいまなざし、銃を手に覚悟を決めた時の無垢な笑顔とその直後の苛烈な瞳。今の彼女を形作るすべてのものが観る者の胸に切り傷のような痛みを残すが、ある目的のために突き進むマリの熱量はそれを凌駕して物語を引っ張っていく。
マリが見せてくれるのは歓楽街に堕ちて過酷な世界で生きる女性の悲哀ではなく、いつからでも変われる人間の強さだ。ラストシーンで窓越しに陽の光を浴びた彼女が流す温かい涙は、一つの目的のために命を燃やす者が掴んだ希望を感じさせてくれる。
【文/深海ワタル】
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