沖縄戦前夜、県知事を引き受けた島田叡が今も愛される理由
監督・脚本:五十嵐匠
脚本:柏田道夫
配給:毎日新聞社、ポニーキャニオンエンタープライズ
公開:2022年7月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほかにて全国公開
公式サイト:https://shimamori.com/
【ストーリー】
昭和20年1月、太平洋戦下の日本はすでに本土制空権を失い、各地で空襲が始まっていた。このままで行けば沖縄が地上戦になることは必至。その状況で沖縄県知事にと白羽の矢が立ったのが、神戸に住む医師・島田叡(萩原聖人)だった。東京大学在学中野球部で活躍した島田は、温厚な性格。家族は沖縄赴任を反対するが、島田は「私が断れば、誰かが行くことになる」と即決し、現地へと向かった。島田の世話係に指名されたのが、比嘉凛(吉岡里帆)である。凛は日本の勝利を信じ、「お国のため」にすべてを捧げる覚悟だ。その思いは、大好きなおばあが米軍の爆撃で命を落としたことにより、ますます強くなっていた。
そうした凛の目には、島田はどこか頼りなげに映る。しかし島田は行政の長として島民の安全を最優先に考え、栃木県出身の警察部長・荒井退造(村上淳)とともに軍と歩調を合わせ、次々と業務をこなしていくのだった。だが軍が首里城地下の要塞を捨て、島を南下すると決めたとき、島田は初めて軍に異議を唱える。
【みどころ】
行政の長として島民を守り抜こうとした島田。戦中の厳しい統制下、食糧のみならず酒やたばこ、そして踊りなど「楽しみ」を解き放った穏やかな人柄を、萩原聖人が好演。内地出身ながら、島田や荒井を慕う島民は多く、島田の名は「島守の塔」に刻まれているだけでなく、野球大会の「島田杯」にも残されているという。
また、知事付職員比嘉凛を演じる吉岡里帆が、軍国少女らしい純粋さと、触れれば壊れそうな脆さを表して胸を打つ。誰もが祖国を愛しているし、生活を愛している。空から爆弾が飛んできて大切な人を次々と殺されれば、憎しみも湧く。学生看護師として野戦病院の傷病兵の世話をするのは、凛ら十代の少女たちだ。彼女たちは、あまりに多くの死傷者を目の当たりにした。出口の見えない戦争が終わった時、生き延びた一握りの命は、生活は、叩きのめされた心は、どうすれば償われ、癒されるのか。市民を巻き込んだ凄絶な塹壕生活の描写は、2022年の今、ウクライナの現状を想像せずにはいられない。
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