松本幸四郎と市川染五郎、親子で醸す鬼平のほろ苦い青春
原作:池波正太郎
監督:山下智彦
脚本:大森寿美男
配給:松竹
公開:2024年5月10日
公式サイト:https://onihei-hankacho.com/movie/
【ストーリー】
「鬼の平蔵」こと長谷川平蔵(松本幸四郎)が火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)長官に就任して以来、江戸では押し込み強盗が頻発していた。大勢の人数で押し入り商家の人間を一人残らず殺害する容赦ない手口は”急ぎ働き”と呼ばれ、現場は凄惨を極める。その場面を、偶然居合わせたのが鷺原の九平(柄本明)。錠前を開ける技に長けた”ひとりばたらき”の老盗賊だ。その夜も、九平の方が先に忍び込み、蔵の鍵を開けて数両の金をくすねているところだった。とっさに姿を隠した九平は、盗賊の頭(北村有起哉)、そして”引き込み女”(志田未来)の顔を目撃する。
その頃、平蔵を訪ねて一人の女がやってきた。おまさ(中村ゆり)である。おまさは平蔵が若き日に、よく出入りしていた居酒屋の娘だ。若き日の平蔵(市川染五郎)は銕三郎を名乗っており、”本所の銕(てつ)”の異名で知られる荒くれ者であった。当時の平蔵は、社会のはみ出し者たちと交わり暴れていた。おまさの父も、居酒屋を営む裏では盗人の一味であった。そのおまさが、平蔵の密偵になりたい、と志願する。平蔵は断るも、おまさの心は変わらず、平蔵の助けになりたい一心で”急ぎ働き”の一味に接近しようと動き出す。それは危険な賭けであった。
【みどころ】
池波正太郎の時代小説「鬼平犯科帳」は、時代劇ドラマの金字塔の一つである。当代の松本幸四郎の祖父が初演し、叔父の中村吉右衛門も長く演じて「鬼平」のキャラクターを不動のものとした。「叔父の鬼平の大ファン」という幸四郎は、「敢えて違った鬼平を作ろうとは思わない」と、これまでの鬼平ワールドを大切に思う気持ちを明らかにしているが、演じる俳優が変われば自ずとキャラクターも変容するというもの。”新たな鬼平”は、違和感なくスタートしながら、新たな魅力に溢れている。一世代若返った幸四郎の「鬼平」は、役人として重鎮に納まりながらもまだ体内に”本所の銕(てつ)”のうずきをもてあましているような、「悟りきれない」一面が不意に顔を出すところが新鮮だ。若き日を演じる染五郎も、自らの出自を振り払うように、野獣の目をして暴れ回る。役人の器に収まりきらないからこその「鬼」の平蔵なのだ、と思わせ、”本所の銕(てつ)”を抱えた平蔵の、これからの成長もまた楽しみである。
女性陣では、平蔵の妻・久栄を演じる仙道敦子に味わいがある。長く平蔵を想ってきたおまさのひさむきさに、正妻としてどう対峙するか。優しさと品格をもった賢明な姿の裏に、少しだけ嫉妬の影を感じさせるところが手だれである。社会の片隅で、「女は人生を選べない」と拗ねて生きるおりん役の志田未来も印象的だ。おまさは、長らく演じていた梶芽衣子の印象が強いが、今後中村ゆりがどこまで自分の色を確立するか、見守りたい。
新たなシリーズは、平蔵が火付盗賊改方長官に就任したところから始まり、まずは「本所・桜屋敷」をまずテレビ放送(CS日本時代劇チャンネル)、映画「血闘」はそれを受けて第二弾。この後のテレビ放送も第四弾まで制作済みだ。「本所・桜屋敷」は「血闘」公開に合わせ、5月上旬フジテレビ系列の地上波での放送が決まっている。
「本所・桜屋敷」には銕三郎時代が長く描かれているので、染五郎の活躍部分が大きい。染五郎ファンは必見である。
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