大林宜彦、82 歳の反戦映像レボリューション
監督:大林宣彦
配給:アスミック・エース
公開:7 月 31 日(金)より、TOHO シネマズシャンテほか全国順次ロードショー(4/10公開予定から変更)
公式サイト:https://umibenoeigakan.jp/
【ストーリー】
尾道の海辺にある唯一の映画館「瀬戸内キネマ」は、今日閉館を迎える。最終日のプログラムは、「日本の戦争映画大特集」のオールナイト上映。生憎の雨模様だが、多くの観客で客席はいっぱいだ。その中にいた青年の毬男(厚木拓郎)、鳳介(細山田隆人)、茂(細田善彦)は、突然劇場を襲った稲妻の閃光に包まれ、スクリーンの世界にタイムリープする。3人は、映画の中で出会った希子(吉田 玲)、一美(成海璃子)、和子(山崎紘菜)らヒロインたちに誘われるようにして映画の登場人物となってしまった。彼女たちにとっては「リアル」な世界も、3人にとっては「ウソの世界」。しかし映画は映画でも戦争映画。物語に巻き込まれていくうちに、彼らにも「死」がリアルなものとして迫ってくる。
【みどころ】
80歳余の老監督の、しかし心はあの日のまま。近年、病を得てなお精力的に映画を撮り続ける大林宜彦が、「花筐」に続いてさらにキッチュな映像で戦争の愚かさに鋭く斬り込んだ。大林は映画会社での監督業を積まずに映像を撮り始めている。ゲリラ的撮影手法などが評価されてテレビCMにも旋風を巻き起こすなど、当時としては異色の道のりを歩んでおり、自らも映画監督ではなく「映画作家」と称している。この映画では、若き日を彷彿とさせる実験的なカットやサイケデリックな色使いを多用し、予定調和に終わらないマグマのようなエネルギーが観客を異世界に誘う。
観客であったはずの人間たちが、映画の中に入り込み、映画の中の登場人物と同化していく本作は、最初はリアルなドラマなのかファンタジーなのか、見る立ち位置を決めかねて多少戸惑うが、後半、常盤貴子や成瀬璃子が「核心」を演じ始めると、映画の「力」を信じて生きる監督の思いが見えてくる。サイレントからトーキーへ、白黒から天然色のカラーへ、時代劇から戦争映画、ミュージカルまで映画の歴史とジャンルを縦横無尽に駆け巡りながら、最終的に行き着く場所は、やはりあの、日本の歴史の1点である。
「尾道三部作」など、広島・尾道にこだわっての映画作りの集大成とも言える本作には、これまで大林の映画を支えてきた俳優たちが多数出演。小林稔侍、高橋幸宏、白石加代子、尾美としのり、武田鉄矢、南原清隆、片岡鶴太郎、柄本時生、村田雄浩、稲垣吾郎、蛭子能収、浅野忠信、伊藤歩、品川徹、入江若葉、渡辺裕之、手塚眞、犬童一心、根岸季衣、中江有里、笹野高史、本郷壮二郎、川上麻衣子、満島真之介、大森嘉之、渡辺えり、窪塚俊介、長塚圭史、寺島咲、犬塚弘……。今だからこそ作らねばならない、伝えなければならない、という監督の執念は、この映画を単なる過去へのノスタルジーに終わらせてはいない。
*本作は2020年4月10日封切の予定だったが、世界を呑み込んでまだ収束の目処がつかない新型コロナウィルスの感染拡大を受け、公開日が延期され、このたび7月31日に決定した。詳細は公式サイトまで。
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