「大丈夫」とあなたが思えるその日まで
監督:神山征二郎
配給:AMGエンタテインメント
封切: 11月22日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式HP http://sukuitai-movie.jp
【あらすじ】
川島隆子(鈴木京香)は仙台医療センターの麻酔科医長。夫の貞一(三浦友和)も仙台市内に医院を開院するだが、 2011年3月11日、東日本大震災によって、夫婦の生活は一変する。貞一は仙台の医院を休診にし、被災地に単身赴任して診療所を立ち上げたのだ。診療所を手伝う看護婦の吉田美菜(中越典子)は、震災で新婚の夫を亡くし、年老いた姑(藤村志保)と暮らす。 一方、隆子の部下である若い麻酔科医・鷹峰純子(貫地谷しほり)も、震災で父親を亡くしそのトラウマから抜け出せず、麻酔医としても岐路に立っていた。そんな純子に、隆子は同じ麻酔医として、「人命を救うために欠かせないこの仕事に誇りを持ち、何とか立ち直って麻酔医を続けてほしい」と語り、支えようとするのだった。平日は多忙な病院業務、週末は自分より体を酷使する夫を気遣い被災地へ。隆子はそうした生活の中で、被災地の人々が明るく振る舞いながらも、いまだ深い悲しみに耐えていることに気づく。
【みどころ】
医師夫婦が主人公でタイトルが「救いたい」だから、医療がメインの物語かと思いきや、震災で生活も体も心も打ちのめされた人々の痛みとそこからの復活を丁寧に描いた人間の喜びと苦しみにそっと寄り添う作品だ。東日本大震災から3年。救われた人も救った人も、救いたい人も救われたい人も、みんな苦しんでいる。息子を亡くし山村に嫁と暮らす姑を演じる藤村志保の静かな中に大きな決意を表す演技に胸を衝かれる。もちろん「医療」の現場も描かれていて、「麻酔医の仕事は、手術中意識がなく自分の体の状態を訴えられない患者さんに代わって患者さんの体を預かる大切な役割」「麻酔は薬を止めれば必ず目覚めます」などなど、麻酔医の重要性が目からウロコなセリフが満載だ。映画を見た後、麻酔医を見る目が変わった自分に驚く。三浦友和も、名作「赤ひげ」の三船敏郎ばりに「医は仁術なり」を体現するが自然体で好演。医師の理想像を描くとどうしてもフィクションだから、と穿って考えがちだが、川島貞一という男は震災時そして今も、必死で被災地を支えている多くの医師たち一人ひとりの現場の声を代弁する存在なのだと感じた。決しておとぎ話にならないリアリティがじわじわ心に染み入る映画である。
【初出:仲野マリの気ままにシネマナビonline 2014年11月12日(再録に際し加筆修正)】
この記事へのコメントはありません。