取り違えられてわかった壁の向こう側
監督:シーラ・ゲフェン(イスラエル)
配給:未定
第27回東京国際映画祭参加作品
【ストーリー】
ユダヤ人女性ミハルは前衛アーティスト。買ったばかりの組み立て式ベッドのネジが足りず、クレームの電話をかける。その梱包をしたパレスチナ人少女は仕事をクビになってしまった。2人はいずれもエルサレム在住だ。ただし「隔離壁」のこちらとむこう。やがて2人は検問所ですれ違い、偶然身柄を取り違えられる。
【みどころ】
毎年10月に開催される東京国際映画祭(TIFF)。カンヌやベルリンの映画祭と同じくコンペティション部門にはメジャーな作品が並ぶが、「ワールド・フォーカス」や「アジアの未来」などの部門には、普段目にすることが少ない国々の作品が多く、それらがTIFFに独特の存在感を与えている。「セルフメイド」はテルアビブ在住の女性が監督で、ユダヤ人とパレスチナ人が入れ替わる話だ。しかしお定まりの「入れ替わりによるカルチャーショック」的映画ではない。検問所自体が持つ非人間性や、自爆テロも描かれるけれど、最大のテーマはミハルが「産む性」にこだわってどのようにアートを極めようとしたか、それがどれほどミハルと夫を追い詰めたかにある。また、「取り違え」のきっかけをつくった女性イスラエル兵士も忘れられない。無表情で検問をこなす彼女が、休暇を取り消されたことで大きく爆発する。 極度の緊張の中で生きる3人の女性たち。決してわかりやすい映画ではないが、平穏な生活とは、人間の幸せとは何なのか、深く考えさせられ、いつまでも心に残る作品だ。
【初出:Wife370号 2015年2月 文/仲野マリ】
この記事へのコメントはありません。