劇団☆新感線35周年記念デジタルリマスター版
惹かれあう男と女の横顔に潜む鬼の影
作: 中島かずき
監督:いのうえひでのり
配給:ヴィレッヂ/ティ・ジョイ
封切:4月11日(土)より全国ロードショー
映像制作:イーオシバイ
舞台製作:松竹
公式サイト: http://www.geki-cine.jp/ashura03/
【ストーリー】
時は文化文政。江戸の闇にまぎれ、人の姿を借りた鬼たちが、人を喰らい、人の世を滅ぼそうとしている。それに対し、人間側も特務機関「鬼御門(おにみかど)」を組織し、対抗していた。病葉出門(わくらば・いづも=市川染五郎)はその鬼御門の中でも「鬼殺し」の異名をとった辣腕剣士だったが、5年前ふっつりと姿を消し、今は鶴屋南北の一座に弟子入りしていた。その一座の小屋に、ある日逃げ込んできた謎の女・つばき(天海祐希)。彼女は鬼御門の長である十三世阿倍清明(近藤芳正)の殺害現場に居合わせていた。つばきは無実を訴え、背中のアザを見せて、出門に「このアザの意味と自分の過去を探してくれ」と頼むのだった。
【見どころ】
劇団☆新感線の舞台を、ライブ感そのままに映像化したゲキ×シネ。 「阿修羅城の瞳」は初めて映画館でテスト上映をしたゲキ×シネにとって原点ともいうべき作品だ。とにかく殺陣が半端ない。1ミリもゆるがせにしないハードボイルド。重量級のアクションを間近でとらえるカメラワークが思わず身をのけぞらせるほど身近にその迫力を伝える。加えて、随所にちりばめられる、笑いのツボ! そして音楽!ダンス! 絶対に客を飽きさせないぞ、というシーン展開の速さには、執念さえ感じられる。その分、物語は単純な勧善懲悪かと思いきや、冒頭でいきなり裏切り勃発! 「鬼の軍団vs鬼御門」を軸にしながらも、登場人物はそれぞれが闇の部分を抱え、一筋縄ではいかない展開が続く。
俳優陣も適材適所、いい味を出している。特に、市川染五郎は、歌舞伎俳優としての経験と実力をいかんなく発揮。身体能力もさることながら、場面場面で三枚目から正義の味方、殺人鬼、そして女への純愛、と多面体の主人公・出門を見事に表現。演じ方によっては単に場面をつなぐ狂言回しになってしまうところ、男の色気とスターのオーラで空気を支配した。後半、出門が鬼御門を去った理由につばきが関係していたことがわかったときの衝撃も、波動となって観客に伝わってくる。対する天海祐希、前半は、「予感」を封じこめながら自分の本当の姿を探し求めるつばきを、ひたむきに生き、悩み、恋する等身大の女性として演じ、大いに共感を呼んだ。だからこそ終盤、真の姿になったときの無表情との間に落差が生まれ、あたかも弥勒のごとき輝きを放って一瞬で「転生」を理解させたのだ。運命にあらがうように生き切る出門とつばきのラストシーンは、欲望のため、快感のため、生きるため、いつだって鬼にも蛇にもなる人間のあさましさが、さながら愛を触媒にして昇華し、結晶となったかのようだ。
今回、劇団☆新感線35周年記念として、デジタルリマスター版でよみがえった本作品。 よみがえらせるだけの価値はある。15年経ってますます人を酔わせる名作である。
【初出:仲野マリの気ままにシネマナビonline 2015年4月11日(再集録に際し加筆修正)】
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